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全部見て…

顔を上げた先のモニターに映っていたのはアルだった。周りがざわついて足を止めて指をさしたりスマートフォンのカメラを向けている人もいる。そんな様子を調査してこいって言われていたけれどモニターに視線が奪われてそれどころではなかった。 「………な、なんで…」 アルは真っ暗な何もない空間で眼を閉じて何か黒い箱にもたれかかっていた。大きな白いワイシャツを一枚着ているだけの格好で、神秘的で色っぽい雰囲気だった。カメラがゆっくりとアルの顔によっていってほとんど目元のアップになったときにアルの目がゆっくりと開かれる。周りの人も、俺自身もハッと息を飲む美しさだった。アルが眼を開くと同時に一気に鮮やかな色が画面に溢れて、真っ暗だった空間に外側から色がついていく。そして最後にアルがもたれていた箱に色が付き、それがテレビだとわかった。テレビの画面の中も色が溢れた画像が映し出され画面一面が鮮やかな色彩で埋まる。アルは画面の中でその様子をぼんやりと見回して最後に艶っぽい視線をこちらになげかけて儚く誘うように笑って口を開いた。 『細部まで、全部見て…』 男女問わず赤面してしまうような声色で意味深なセリフをその容姿と見合わない無邪気さで言う。周りにいた人たちはモニターに釘付けになっていて、なかなか動いていなかった。アルの映っていた画面が別のCMに切り替わってやっとみんなハッとしたように動きだす。俺はその場で動けなかった。 隣をスマホを持った女の子たちがまとまって通り抜けていく。みんなでちょうど今撮った写真を見せ合っている。 「ねえ!!今のテレビのCMやつ!!かっこよかった〜!!」 「やばかったぁ〜出てた人の色気やばかった…」 「あれ多分『アルジェント』ってモデルでしょ?ほらちょっと前に深夜のトーク番組にでた…」 「あっ!!ATEのCMも出てた???」 「そうそう!!なんか最近ちょっと見なくなってたけどまた見れて嬉しい〜!!」 きゃあきゃあと騒ぎ合いながら女の子たちが行った後も俺はモニターを眺めてた。

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