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せめてもの『態度』

ちょうどその頃…… 「………」 オレは自宅で待機していた。壁にかかっている時計に目をやる。短い針が4のところにいったらオレの出たテレビの広告が大きなモニターで映るんだって山田さんが言ってた。今は短い針が4と5の間で長い針が4の上に来ている… ………まだかな…杉田さん… 本当はオレもモニターのところに行って、その広告が流れたらすぐ杉田さんのところに行けるようにしたかったけどそれはパニックになるし目立つからダメだって椿が…代わりに杉田さんがちゃんとモニターを見てくれるようにして、その後はすぐ家に帰っていいよって伝えるって言ってたけど… もう一度時計を見るけどあまり時間は進んでないみたいだった。 杉田さん…どれぐらいで帰ってくるんだろ… なんだかそわそわして落ち着かなくて玄関まで行ってみた。玄関のドアをじーっと見つめる。でもドアは開かなくて首を傾げた。 ………もしかして…杉田さん、なんとも思わなかった…? きゅうっと胸が痛んだ気がした。あのテレビの広告は椿が持って来てくれた仕事だった。大きいモニターで流れるし、テレビでも流れるから人もいっぱい見るって…杉田さんが怒ってる理由は相変わらずわからないし、椿が言ってた『態度で示す』っていうのもよくわからなかった…でも杉田さんがお仕事頑張ってたのを褒めてくれたことを思い出した。偉いねって言ってくれて、それでなんだかお仕事も楽しくなった。だからお仕事を頑張ろうって思って、星野さんに頼んでたくさんお仕事探してもらって全部やった。大変だったけど、何もわからないオレができるせめてもの『態度』だった。小さなお仕事が多かったけれどそんなお仕事の載った雑誌なんかも明日から発売になるらしい。星野さん曰く、大きな仕事と重なって露出が増える方が話題になりやすいんだって…それで次のお仕事に繋がったらいいねって…だから頑張った…でも… 思わず俯いて自分のつま先を見る。 でも…もしかしたら『態度』が足りなかったのかな…杉田さんすごく怒ってたし…それともあの広告あんまり良く無かった…? テレビの広告はいろんな人がたくさん褒めてくれたし星野さんなんて撮り終わった時泣いてたからよくできたんだと思ってた。だからそう思うとなんだか残念だった。 …………もどろ… しゅんとしてリビングに戻ろうと背を向ける。その時、たたた…って音が近づいて来た。その音はどんどん大きくなってドアに近づいてくる。そしてガチャガチャっと何度か失敗しながらも鍵を開ける音がして大きくドアが開いた。一瞬ドアの向こうが明るくて目がくらんだけど開いたドアから駆け込んでくる杉田さんが見えた。

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