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杉田さん、あのね

「っはぁ…はぁ…はぁ…」 「……す…ぎたさん…?」 玄関の扉を開けて駆け込んできたのは杉田さんだった。額に汗を浮かべて、膝に手を付き、肩で息をしている。急に現れた杉田さんに驚いたけど伝えたかったことがあったのを思い出してハッとした。 「す、杉田さん…あのっ、オレっ…」 でもいざ杉田さんを前にすると言おうと思ってたことが出てこなかった。 ごめんねってもう一度言って、それから頑張ったよって言うつもりだったんだ…なのに… 『あのっ…あのっ…』っとまごついてうまく言葉にできない自分にイライラする。 杉田さんはしばらくの間はぁはぁと息を整えていたけれど少しすると顔をあげた。眉毛が下がって困ったような笑顔みたいななんだかよくわからない顔をしてて息を飲んだ。そのまま杉田さんは靴を脱いで玄関から上がって近づいてくる。 「あっ、あの…すぎたさん…おれ…オレ…ッ!!」 「………」 何か言わないとって一生懸命口を動かしたけど伝えたい言葉は出てこなくて、そのうちに杉田さんが近づいてきたと思ったら突然抱きつかれた。びっくりして動きが止まって声も出てこなくなる。 「す、すぎたさ…」 「アル…」 ゆっくり下に視線を下ろすと杉田さんが眉毛を下げて笑ってた。なんだか心臓がドキってした感じがした。杉田さんが目を細めて口を開く。 「…広告みたよ…よかった。」 「ッ!!」 喉の奥がぎゅって熱くなって鼻の奥がツーンとした。よくわからなかったけれど杉田さんをギュってしたくなってそうした。 後から聞いた話だけど杉田さんが帰ってくるのが遅かったのはオレのテレビの広告を見た後に星野さんに電話をしていたかららしい。ここ最近のオレの仕事について聞いたんだって。後からすごく頑張ったんだねって褒めてくれた。 そして杉田さんの言葉を聞いてオレも言わないといけないことがあったと思い出した。がばっと杉田さんから離れて目を見て口を開く。 「杉田さんっ!!オレっ!!」 「!!」 杉田さんは突然大きな声を出したオレにびっくりしたみたいだった。 「あの、おれ…」 「………」 「お、れね…その…」 また『なんで杉田さんが怒ったかわからない』なんて言ったらまた杉田さんが怒っちゃうんじゃないかと思ってなかなか言えなかった。口は開くけど出てくるのはしどろもどろな意味のない言葉ばかりで杉田さんの顔が見れなくなってくる。 でも、杉田さんはそんなオレの様子を見ると手を握ってくれた。両手でオレの手を包み込むみたいにして揺すりながら笑いかけてくれる。 「アル、ゆっくりで大丈夫だよ…」 「………う、ん…」 『深呼吸して?』と言う杉田さんに合わせて深呼吸すると少し気持ちが落ち着いた。

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