103 / 172

金八

「ドラマ?」 「そう!!ドラマ!!それも金8だよ金8!!」 「き、きんぱち…」 脳内で長い髪の毛を頭を大きく振りながら耳にかける超有名俳優が頭をよぎったけどそのイメージを頭を振って脳内から追い出す。とにかく金8というのは金曜の夜8時かあるドラマのことで、金曜の夜のゴールデンタイムに放送されるだけあって大変人気のある枠だった。 たしかアルがATEの広告で共演した女優さんもついこの間まで出ていたはずだ。 「それは…すごいですね…」 「でしょう!?ねっ?アル、やるよね??ドラマだよ??きっと今金8なんかに出たらまた仕事増えちゃうよ〜!!」 『こ〜ま〜るぅ!』と女子高生みたいなテンションで星野さんが騒ぐ、でも今回はそうやってはしゃぐのもわかるような気がした。かくいう俺もちょっとテンションが上がっている。 だって金8、毎シーズン見てるし…このあいだのも乃●坂の子が出てて可愛かったし…あれにアルが…というかもしかしたらそれこそアイドルとか…俳優さんに会う機会もあるんじゃ…? 「ほ、星野さん、今度のドラマどんなのなんですか??アルの役は??」 「あ!!そうだよね!!えっとね…『青空に流星』って言う恋愛モノだよ!!残念ながら主演ではないんだけど、主人公の友人役で…なんとライトなやつだけどラブシーンもちょっとだけありますっ!!ドラマデビューとしてはとってもいい役だよ〜!!」 イェーイと星野さんがグーにした手をつき上げて教えてくれる。ラブシーンと聞いてちょっとだけドキッとしたけれどキスとか、ベッドシーンとかではないみたいで安心した。 でも…もし今後もアルがこういう仕事をするってことはそういうシーンもあるかもってことだよね… そう思うと複雑な気持ちだった。 ……もし今後そんな仕事が来た時に俺…ちゃんと応援できるかな… ちょっと不安になってアルを見てみたけど本人はドラマだろうがラブシーンがあろうがお構い無しって感じだった。きっとアルにとっては前のテレビの時もそうだったけど同じ『仕事』でイマイチ違いがわかってないんだろう。 ハイテンションのままドラマの内容や演技の極意を熱弁する星野さんと、なんとかしてソファに横になろうとするアルというカオスな光景が繰り広げられていると社長が笑顔のままそっと口を開いた。 「……和也、盛り上がってるところ悪いんだけど……アル、あなた演技はできるの?」 「…へ……?」 「…あ……」 「……ん?…んー…」 社長のその一言に俺も星野さんもハッとし、唯一アルだけがいつも通り眠気に任せてよくわからない返事をしていた。

ともだちにシェアしよう!