「………」 「………」 「………」 「……終わりだ…今までなんとかただの天然にとどめてきたアルのイメージがポンコツだと世間にバレてしまう…あぁ…それ以前にドラマの放送に…いや…出演にこぎつけられるんだろうか……あぁぁ…もうおしまいだぁ…」 「…？…？」 シーンと静まりかえった部屋で星野さんのブツブツと呟くような声だけが聞こえている。 「……？ねぇ杉田さんどうしたの？オレどうだった??」 「え…えっと…」 すると我慢できなくなったアルが声をかけてきた。この空気の中で、アルの演技についての評価を改めて口にするのはかなりの精神力を要する… で、でも…アルのためにも本当のことを教えてやったほうが…… 「……もしかして…ダメだった…？」 「………」 アルがしゅんとしたような顔でこちらを見上げてくる。実際アルは表情の変化が薄いから俺がそう見えただけだけど、垂れ下がった犬の耳と尻尾が見えそうな勢いだった。っう…と言葉に詰まる。 「そ…そんなことも…ない…んじゃ…ない…………か、な……」 「…本当？」 「……う、ん…」 星野さんにじとっとした視線を向けられたけど気づかないふりをしておく。だってあのアル『テロレベルに下手くそな演技だった』とは言えない… 「じゃあ…次の仕事はこれ…？」 「……っう…」 褒められたと認識したのか、なまじやる気を出してしまったアルの視線が痛い… 助けを求めるように椿さんに視線を向けた。椿さんはうーんっと唸ってから大きく息を吐いた。 「そうね……たしかに…逃すにはあまりに大きい魚だわ……」 「「「………」」」 俺も、山田さんも、星野さんも頷く。 「でもこのまま出すのは逃す魚以上に失うものが大きすぎるわ…」 「「「………」」」 また3人揃って大きく頷く。 椿さんはまた少し考えると髪の毛をかきあげて小さく『仕方ないわね…』と呟いた。