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演技指導

そして翌日からは講師の先生を招いてアルの演技指導が始まった。 「『あんたがそんなにがんばんなくてもいいんじゃ…』」 「もっと感情を込めて!!あと音読じゃないんだから、棒立ちじゃなくて体も動かす!!」 「『あんたがそんなに…』」 「はい、違う!!」 「………」 今はアルが出ることになった時に話すことになる一番初めのセリフで練習をしていた。でもその一番初めの『あんたがそんなに頑張んなくてもいいんじゃない?』っていうセリフだけをもう2時間以上も練習している…正直初めの頃から進歩があるようには見えなかった… やっぱり…無理があったのかな…? 小さめのレッスン室の端に一人腰掛けてそう思った。ちなみに一人でと言ったけど星野さんは他にも多く仕事を兼任しているので、今回のアルの演技指導に関してのサポートは俺がメインですることになった。今後一人でマネージャー業をしていく練習のためにもってことらしい。 「……じゃあ…ちょっと休憩にしようか…」 「……っはぁぁ…」 休憩に入るとアルはがくんっと膝から落ちるみたいな勢いでしゃがみこんで大きく息を吐いた。 「アル、お疲れ様。」 「……杉田さん…」 この仕事についてから何度もアルにお疲れって声をかけたけど、今回が一番疲れているように見える… まぁ…2時間も立ちっぱなしだった上に同じセリフを大きな声で何度も言ってたら疲れもするか… 「………ねぇ、杉田さん……どうだった…?」 俺が渡した水を飲みながらアルが声をかけてきた。ちょっと困る質問だ… 「え…ええっと………少しづつは…よくなってる…かな………多分………」 「………」 「…………ごめんね…まだまだかも…」 「…っはぁぁぁ……」 この2時間で先生にコテンパンにされたアルにこの前みたいなお世辞は通じなかった。疑いの目を向けられ白状させられてしまう。アルも自分の演技力を理解し始めたようだった… ここまで落ち込まれると逆にこの間お世辞に罪悪感が募る…なんか…あげておとしたみたいな… アルはその後も休憩時間いっぱいしゃがみこんで、眉間にしわを寄せて難しそうな顔をしてた。 「じゃあ続きやりますか、またさっきのセリフの続きからね。」 「……はぁい…」 「返事は短く。」 「……はい…」 演技指導初日の練習はこの後も続いたけれど、結局この後もアル成長はあまり見られなかった。

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