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頑張るアルと呑気なアル
「『あんたがそんなにがんばんなくてもいいんじゃない?』……『あんたがそんなに…』……んん…?」
「………」
「……ううーん……」
ソファに座ってたアルがぺしょっと体を投げ出したのが見えた。アルは家に帰ってからも、例のセリフの練習をしていた。
アルは練習とかを熱心にするのは嫌いなタイプかなと思ってたから少し驚いた。『…ううううう』とソファの方からアルが唸る声が聞こえる。ちらっと時計を見るともう遅い時間だった。
普段ならもう寝る時間だし、それに今日は普段のお仕事に加えて練習もあったから疲れているはずだ…
アルはもう何度も体を投げ出しては眠りかけ、ハッとして目を覚ますのを繰り返していた。
「『あんたがそんにゃに…』…ん?…『あんた…が……がぁ…』……zzz…」
「………」
もはや呂律が回らなくなっている。
………
なんだかちょっとかわいそうな気分になってきた。アルにとってドラマの仕事は別に特にやりたい仕事ってわけではないのに、周りの期待に応えるためだけにやるのはしんどいように思う。冷凍庫からアルの好きなバニラのアイスを取り出してソファに近づく。今日はもう一つ食べたけれど今日ぐらいいいだろう。アルはセリフの書かれた紙を持ったまま目をつむってわざとかってぐらいの勢いで船を漕いでいた。そのアルの頬にアイスを押し当てる。
「っい…!!………杉田さん…」
「お疲れ様…アル眠いんでしょう?今日はこれ食べてもう寝たら?」
「……オレ今日もう一個食べたよ…?」
「いいよ、今日だけ。……特別ね。」
「…………実はスタッフの女の子がくれてもう一個こっそり食べた……」
「………それは……聞かなかったことにするよ……」
そう言ってアルにアイスを手渡すとアルは嬉しそうにしていた。早速開封したアイスを口に運びながらうまうま言っている。
「………」
………やっぱり…星野さんたちには悪いけど、俺はこうやってちょっと呑気すぎるぐらいにしているアルを見てる方が好きかな……
目を落とすと先生に書かれたんであろうメモ書きがされた台本のコピーがあった。
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