「………」 アルが出て行った方向に視線を向けたまま固まる。アルは「上手くなるよ。」と言い切って部屋を出て行ってしまった。引き止めようと伸ばしかけた手が空中にとどまっている。 ……なんか…怒ってた…？ 今回の仕事やめる？っていう提案はアルが乗っかってきこそすれあんな風に不機嫌にしてしまうとは思ってなかったのでうろたえる。それにアルが不貞腐れたりブスッとしているのは見たことがあるけれど今日みたいに怒って不機嫌になっているのは見たことがなかったから余計に落ち着かない気持ちになってしまう。 ………な、なんで…？ アルが俺を怒らせることはあったけど、逆の経験はなかった。それに普段怒らない人が怒ると怖いとはよく言ったもので、なかなか怒らないアルを怒らせてしまったかもしれないという不安は大きかった。 ………そういえば…アル『オレが下手くそだから？』ってちょっと悲しそうな顔してた…… アルが眉毛を下げてそう言っていたのを思い出す。 それで俺…『そんなことないよ』って言ったけどしどろもどろな感じになっちゃったんだっけ… たしかその会話の後からアルが怒っていたような気がする。 「………」 ………遠回しに練習しても無駄だからやめようって言われたように感じてしまったのかな… アルが怒った理由の端っこがわかったような気がした。それに俺自身、アルがしんどそうだからって理由だけじゃなくて、実際練習してもアルは上手くならないかもって思っていたからやめようって言った節もあったんだと思う。 ………アルを信じきってあげることができてなかったのか… 俺に『10日で上手くなるから』と宣言するようにアルは言った。 きっと俺がアルを信じていないと気付いていたんだ…だからあんな…敵に挑むみたいな態度を… アルのことをわかるようになったと思い過ぎてしまっていた自分に落ち込み猛省した。 ………謝ろう…ちゃんと明日謝って…みんなが10日じゃ無理だって言ったって俺だけはアルのこと信じよう…