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楽しみにしてほしい人
杉田さんに今度のドラマのお仕事を『やめる?』って聞かれた後、オレはなんかモヤモヤして部屋のベッドに寝っ転がっていた。枕元にはセリフの書かれた紙が置かれている。
「………『あんたがそんなにがんばんなくてもいいんじゃない?』……」
今日何度もくりかえしたセリフを再度口にする。でも自分では先生がお手本で言ってくれたそのセリフと、自分のセリフの違いがよくわからなかった。
……多分…それが良くないんだと思う…
脳裏には『オレが下手だからやめようって言うの?』って聞いた時の杉田さんの顔が浮かんでいた。
………ちょっと困ったような…そんな顔してた…
ごろんっとその場で寝返りを打って壁の方を見る。今度はドラマのお仕事だよって聞いた時の目がキラキラしていた杉田さんを思い出す。
………杉田さん…オレがドラマに出るの、楽しみにしてくれてるんだと思ってた…
そしてまたあの困った顔を思い出してきゅっと胸が痛くなった。
……そうじゃなかったんだ…
なんだかそう思うとしんどかった。星野さんが無理っていっても椿が難しそうな顔をしてもこんな気持ちにはならないけれど杉田さんがあんな風に困った顔をするとなんだか胸がざわざわした。
「……ん…ふぁ…」
でもそうやって色々考えていると、いつのまにか瞼が重たくなってあくびが出た。
そういえば練習があるからっていつもより帰って来るの遅かったんだ…
それに気付くと余計に眠たくなった。いつもなら杉田さんがいないとなかなか寝付けなくて長くうとうとしているけれど、今日は疲れたのかいつのまにか眠ってしまっていた。
「……て……ル…きて…」
「……んん?…んぅ…」
「…ル…アル、朝だよ、起きて。」
「…んぇえ?…んん…?」
そして、時間が経って、名前を呼ばれて浅い眠りから目を覚ますと目の前に杉田さんの顔が見えた。オレの手を握ってなんだか照れくさそうな顔をしておはようって言っている。昨日のこともあってなんだかまた嫌な気持ちを思い出して目をそらしてしまった。
「………朝ごはん、できてるから一緒に食べよう?ほら、起きて?」
「………」
いつも杉田さんはオレが起き上がるまでこうやって声をかけたり引っ張ったりする。そうしないとオレがまた寝ちゃうんだって、そんなことないけど…でもとにかく今朝も杉田さんはいつもと変わらずそうした。でもオレはいつもみたいに『やだ』とか言うのもなんだか気まずくて黙って言うことを聞いた。
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