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結果発表
こうしてアルは演技の猛特訓を始めた。毎日三時間から長い日はほぼ一日中先生に演技の指導をしてもらい、今まで通り雑誌やテレビなんかの仕事もこなしていた。移動の時も練習し、家では俺も読み合わせに付き合わされた。
……正直ちょっと恥ずかしかった…
夜も疲れで俺がいなくても気付くと寝ているようになった。ただアル曰く昼間に眠くてするうたた寝の時間が疲れで長くなってるようなもので夢見は悪いしあんまり疲れも取れないらしい。だから出来るだけ一緒に寝てやるようにはしている。こうして10日が経ち、社長、星野さん、山田さんの前で練習の成果を見せる時がきた。
「『あんたがそんなに頑張んなくてもいいんじゃない?』」
「………」
社長室で緊張した空気の中一通りの演技が行なわれる。相手役はまた今日も俺だったけれど、アルの練習に何百回と付き合わされたせいなのか、それともアルの10日間の努力に評価がつくことへの緊張が大きいせいでなのか、人前で演技することへの緊張はそんなに感じなかった。
「………」
「………」
「………」
険しい顔で3人が見守る中アルの演技が終わる。社長室がシーンと静まり返って、3人ともうーんと各々考えていたみたいだった。
ど、どうだろう…はじめの頃に比べたら相当うまくなったと思うんだけどな…でもそれって頑張ってるアルを近くで見てた俺の贔屓目でしかない…?ど、どうなんだ…?
隣を見ると心なしかアルも少しだけ緊張しているように見えた。少し…俺には相当長く感じたけど…とにかく少し時間が経って社長は星野さん、山田さんと小声でなにか話し合うとお互い頷きあってからこっちを見た。ごくんっと唾を飲み込む。なぜか俺まで緊張していた。
「………」
「………」
社長がじーっとこっちを見ている、その表情からは結果を読み取ることができなかった。でも突然その顔がにっこりと笑う、そしてそのまま社長はパチっとウインクした
「とりあえず合格よ、よくやったわ、アル。」
「!!」
「!!」
アルと顔を見合わせる。アルはにやぁっと笑ってドヤ顔をしていた。
………あ…
その顔にまた彼の片鱗を感じて胸がドクンと鳴った。でもその余韻に浸る間も無くなにかが俺とアルに突っ込んできた。なんとか倒れるのを持ちこたえて目をやるとそれは星野さんだった。
「うわぁっぁぁぁぁ!!!!よがった…よがっだよおおぉぉおぉ…これで、これで…きんぱちに……」
「うわっ…星野さんまた鼻水が…」
「……おもっ…うるさ…きたな…」
アルはそう悪態をついているものの顔はいつもと違い笑っていた。
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