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本物の台本
「『ちょっと待てよ、あいつより俺の方がお前のことを思ってる…』」
「………」
「…うーん…」
アルがはあっ…と息を吐いて台本を投げ出す。今度のはコピーじゃなくてきちんと製本された本物の台本だ。
あれから無事、アルは主演の俳優さんの友人役としてドラマへの出演が決まった。
「あ、頬付…アル君…髪の毛セットしてるから、頭動かさないで……」
「………」
「ちょ、頭揺らさないで…!!」
「……アル…翔さんに迷惑かけないで…」
「………」
アルはいやそうな顔をして渋々頭を揺らすのをやめた。翔さんは『ははっ…』と苦笑いをしている。今日はこれから雑誌の撮影だった。アルはまた投げ出した台本を拾い上げてじーっと見つめている。例のラブシーンのページだった。
………出演が確定してからも毎日練習しているけど、他のシーンはともかく、相変わらずラブシーンがぎこちないんだよな…
アルのやるラブシーンは今回はじめてのドラマということもあってそんなに過激なものではなかった。話の終盤でヒロインの女の子が主人公の元へ行こうとするのをアル演じる主人公の友人が引き止める…実はこの友人はヒロインのことが好きだったという設定だった。この時にヒロインを抱きしめてセリフをいうのだ。
「なに?次の仕事、ドラマなの?」
アルの持ってる台本に興味を示した翔さんがアルに声をかける。あんなに迷惑をかけられているアルにすら気を使ってくれる翔さんには本当に頭の下がる思いだった。でもアルは相変わらずで、台本をバッと抱え込んで隠すと翔さんにジトーッとした視線を向けた。
「……勝手に見ないでよ…えっち…」
「え…!?あ、あぁ…ごめんごめん…」
「ちょっとアル!!…すいません…」
翔さんは大丈夫だよと笑って許してくれる。アルのこの態度も嫉妬からくるものかもとわかって一時期は嬉しかったがなかなか考えものだった。
なんかもう最近は嫉妬というより半分意地でしてるんじゃないかと思う…
思わずため息が出た。
「でも…すごいね…テレビに出るようになってからまだ数ヶ月でしょ?やっぱりあのViewのCMの効果なのかな…」
Viewというのはアルが広告をしたテレビの名前だった。ありがたいことに人気のあるCMのようでテレビCMとしても起用され、頻繁に見かけるようになった。
「アルジェントさーん、セットの確認お願いしまーす。」
「あ、呼ばれてるね…うん、ヘアメイクももう大丈夫だよ。」
「………」
そんな話をしているうちにアルのヘアメイクが終わり、アルはスタッフさんについてスタジオに向かった。オレも移動のために軽く荷物をまとめる。翔さんもメイク道具なんかを片付けながら続けた。
「かっこよかったな〜あのCM、男のオレもドキッとしたな〜」
「ありがとうございます。」
「アル君、あのCMでも表現力?あったもんね。ドラマとかのお仕事向いてるんじゃない?」
「ははは…それがそうでもなくって…」
「……?」
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