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知らない記憶
「……またがっかりした…?」
「………」
俺はアルのその問いに答えなかった。
がっかりしていたけれど、ここでうんって言うのはまるでアルを責めているみたいだ…
「………?」
アルは少しの間また返事をしない俺の顔を覗き込んでいたけれどすぐに前に向き直った。
「………」
「………」
またお互いに何も言わずに歩く。アルは気を使っているのかそれとも反応を示さない俺に拗ねてしまったのか静かにしていた。
風でポプラの枝葉が揺れる音や、散歩に来ていた子供が遊ぶ声がする。
………せっかくアルのドラマのためのお出かけだったのに変な空気にしてしまったな…
そう思うと落ち込んだ気持ちが余計沈んだ。
「………でもさ…」
「……?」
アルの声がして少し顔をあげると周りをよく見ながら歩いているアルの横顔が見えた。アルの目にポプラの葉っぱの緑色が写っていて綺麗だった。
「……きれいなとこだね?ここ。」
「……え…?」
アルはそう言うとこっちを見た。銀によく似てるけど全く似てないなと思った。アルがふわっと柔らかく笑う。
「…なんかいい感じ……昔のオレも多分杉田さんと来たかったと思う……」
「………」
そう言われてアルがあったことを理解するより先に目の奥がじわっと熱くなった。思わず視界が滲んでその滲んだ視界の向こうでアルがギョッとしているのがわかった。パッと顔をうつむかせて手で覆う。
「す、杉田さん?どうしたの…?そんなにがっかりしたの…?」
「………」
声を出したらその声が震えそうで首を横に振った。
アルは知らないはずだ…
思い出したのは銀との会話だった。
『あ、せやまな、あんな?学校になめっちゃ綺麗な道があんねん。』
『…道?』
『うん、ポプラの並木でな…まなポプラってわかる?大きい木やねん。それがな?道の脇にズラーっと植わっとってな?まなにも見せたいなぁ…こっち来た時に見せたるわ。』
『…そんなに綺麗なんだ……』
『せやで?楽しみにしとって?』
あれはまだ5月か6月だったはずだ…あの時は銀がいなくなるなんて…ましてや記憶を失うなんて思ってもなかった……そんな些細な会話アルには話していない。
アルは俺の周りで長い手足をばたつかせておろおろしていた。俺の体に触れようとしては手を引っ込めて、眉毛を下げて心配そうにしている。
銀とは似てるが似つかない…
ずっと鼻をすすって涙を拭った。泣き止んだ俺にアルはホッとした顔を見せた。
……知らないけど…またそうおもってくれたんだ…
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