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キスの建前

「ん?ちょうちょむすびってどれ引っ張るんだっけ?」 「………」 杉田さんとお風呂に入ってやっと恋人のえっちを教えてもらえることになった。一緒にお風呂に入ったりするのもその一環らしいけどそのよさはイマイチよくわかんなかった。 杉田さんはちょっとおもしろかったけど……でもそういえば杉田さんと会う前にした女の子の中にもいっしょにお風呂はいろって言ってきた子いた気がする… 杉田さんはなんだかぽやっとした顔でオレがバスローブの紐を引っ張ってるのを見ていた。 ……なんで突然黙っちゃったんだろ? でもその後もオレがバスローブの紐に手こずっていると、杉田さんはオレの手に自分の手を添えて紐を引っ張らせた。 「……こ、こっち…だよ…」 「ッ!!」 ぱらっと杉田さんが着てたバスローブがはだける。 それと同時に杉田さんはそのままオレの手を引っ張って突然唇を寄せてきた。きゅっと目を閉じて、緊張した顔で唇をっんっとすぼめる杉田さんの顔が見えて、ビクッと体が硬くなってとっさに杉田さんから離れた。 ……杉田さん…今… 思わずぱっと口元を手で覆う。杉田さんの始めてしてきた行動に困惑していた。 ハッとして杉田さんを見ると、杉田さんは杉田さんで驚いた顔をしたあと、眉尻を下げて悲しそうな顔をしながら視線をそっぽにやってしまった。ぎこちなく膝を自分の方に寄せて縮こまりながら、きゅっと着ているバスローブを握っている。その手は小さく震えているように見えた。 「あ…その…こ、恋人同士なら…その…き、キス…とかするし…って思ったんだけど……」 「………」 なんでか悲しそうな顔のままへへって笑って杉田さんはそう言った。ちょっとだけ震えた声で『だめ、かな…』って言う。 ……… ちょっとだけ考えた。 オレはキスが嫌いだった。 オレが覚えている限り一番はじめにエッチした女の子も今日の杉田さんみたいにキスしようとしてきたけれどなんだかそのときにしたくないって思った。 その後も何人かの女の子とそうなったけどやっぱり誰ともしたくなかった。なんだかその子たちとキスするのは想像できなかったし、気持ち悪い感じがした。 でもオレがキスを嫌がっても女の子たちは残念がりはしたけどそれ以上でもそれ以下でもなかったし、エッチは気持ちよかった。 杉田さんに視線を戻す。杉田さんは笑っていたけどなんだか今にも泣きそうに見えた。バスローブの裾をいじってベッドのシワを見つめている。 ………… 杉田さんの唇は薄いピンク色でむにむにしてそうで美味しそうに見えた。

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