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アルのファーストキス
キスがしたいと思った。
これまでアルと何度か行為を繰り返して、仲も良くなったつもりだけれど、アルとはキスをしていなかった。基本的に行為の時、俺は受け身でされる側だから自分からキスしにいったこともない…
だから、アルがキスをすることを意図的に拒んでいるのか、ただ偶然今までなかったのかはわからなかった。今の俺とアルの関係の肩書きは『恋人』ではなかったから、俺からキスしたいなんて言うべきじゃないと心のどこかで思っていたのかもしれない。そんなこともあって今までその真偽を確認する機会はなかった。
でも今日、お風呂上がりで普段よりほんのり血色のいいアルの唇を見てるとふとキスがしたいと思った。
ただキスがしたいと思ったというより、今日は楽しくデートができたし…T大でアルは銀と同じことを言ってくれたし…アルと恋人っぽいことがしたかった。特別感が欲しいと欲が出た。
…今日だけの……今だけの『恋人』の肩書きを利用したらできるんじゃないかって思った。
「……こ、こっち…だよ…」
「ッ!!」
そして勇気を出してアルの唇に自分の唇を寄せてみた。恋人同士のエッチを教えるためって名目に自分の欲求を隠してキスしようなんて、少しズルをしようとした。
だから天罰が下ったのかもしれない…
アルは慌てたようにパッと俺から離れてて口を覆った。困惑した顔で俺を見ていた。
……あ…
そこでアルが意図的にキスしていなかったのだとわかった。アルにキスを拒まれたショックと舞い上がっていた自分への恥ずかしさでアルの顔が見れなかった。
「あ…その…こ、恋人同士なら…その…き、キス…とかするし…って思ったんだけど……」
「………」
なんとか絞り出した苦しい言い訳も震えていた。アルが何も言ってくれないのが辛くて自分の着ていた前のはだけたバスローブを握る。
………失敗した……
でもそう思ってしばらく俯いているとそっと頬に手が添えられて唇をふにっと押された。パッと顔を上げるとアルが俺の唇を親指で捏ねている。
「……ん、ぅ…ぅあ、る?」
「………」
アルはしばらく俺の唇をふにふにと押し、なぞり、引っ張っていた。でもしばらくすると満足したのか口を開いた。
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