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逆パワハラ
こうして俺とアルは休暇を獲得した。もちろんすぐに「嬉しいです。ありがとうございます。」となったわけじゃない。ちゃんとそんな事言われても困りますと伝えた。でも…チケットが勿体無いって言われるし…本当に山田さんも星野さんも社長も忙しかったし…何よりここしばらくアルが纏まって休めてないと言われたのが一番大きかった。
…アル…もう少ししたらドラマの影響で増えた仕事で一層忙しくなるもんな…
そう思うと今のうちに休んでおくのもアリなように思えた。話を聞いてる間もすでにぐでぇっとだらしなくソファに伸びていたアルを見て心が揺らぐ。アルが首だけ起こしてこっちを見て尋ねた。
「キューカ…?杉田さん、キューカって何?」
「…おやすみの事だよ…」
「おやすみ?くれんの椿?」
「ええ」
そしてアルはおやすみと聞くと目を輝かせて社長に確認し、そのままの瞳でこっちを見上げた。
う…で、でも…俺は今日ここにやる気満々で仕事をしにきて…
苦しくなって目を逸らすと社長がどうなの?と言うようにアルの方へ首を傾けた。再度アルをみるとやっぱりこっちを見上げている。アルが大変そうにしている自覚はあったので大変心苦しかった。
う…
「い、いただきます…」
「!!やった」
「ふふっ」
俺が渋々といった感じでそう返答するとアルはヤッタァと脱力した。これは相当疲れてたらしい。そもそもはアル自身が一般の成人男性より相当体力面で劣っていることが原因ではあるけれど少し反省した。
「じゃあこれね、4枚あるから!」
「……ありがとうございます…え…?よん…?」
「誰か共通の友人でも誘って行ってらっしゃい」
「えっ!?そ、そんな…」
でもそう言うと社長は俺に反論の余地を与えずチケットを押し付け俺とアルを部屋から出した。部屋のドアから顔を覗かせにこっと笑って手を振っている。
「じゃあ、楽しんでね。お土産楽しみにしてるわ〜」
「あ…」
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