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「お風呂」
「………」
「…!」
しばらく机に突っ伏したアルの頭を撫でていたらアルがもぞっと動きのそのそと立ち上がった。アルは部屋の窓から見える露天風呂を見てそれからこっちをじーっと見てきた。
俺が何かするのを待ってる風だけどそれが何かわからない…
「…?アル?どうしたの?」
「…お風呂」
「え?お風呂?」
アルが「ん」と露天風呂を顔で示してみせる。そこでやっと風呂に入りたいって言っているんだと理解した。
でも…アルがお風呂に入りたいって言い出すなんて珍しい…
アルは基本家では、お風呂はめんどくさくて入りたくなさそうだった。自ら入りたいなんて言うことはないし、むしろ俺が入ってと頼むと必ず「えぇ〜」と不満そうな声をだした。
やっぱり温泉の大きくて豪華なお風呂が気に入ったのかな…?
そんなことを想いながら持ってきた荷物を引き寄せ中身を探りながら口を開いた。アルが入っている間に着替えやらドライヤーを用意しておこうと思った。でも、アルが思っていたことは俺の予想とは少しずれていた。
「あー、お風呂なら入ってる間に服とか用意しとくから行ってきていいよ。」
「………違う…」
「…?」
「杉田さんもはいろ」
「え、俺?」
どうやらアルは「一緒にお風呂に入ろう」と言う意図を「お風呂」と言う単語のみで伝えようとしていたらしい。謎は解けたが、突然一緒に部屋の風呂に誘われて、ドギマギした。アルはもしそういうことがしたいならこんなまどろっこしいことはしないでただ「しよ」って言うからアルがこの後行為に持ち込むためにそう言う提案をしたわけではないのはわかっている。でもそれはそれ、これはこれだった。照れてしまったこともあってうまく返事ができないでいるとアルが口を開いた
「ん、一緒に入ったんでしょ?銀と」
そう言ってアルは俺の方に手をのばしておいでおいでってするみたいに手招きした。
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