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なんかちがう
「んねー杉田さんはやくー」
「も、もうちょっと待って…」
俺は今どっどっどっとうるさくなる心臓の音を聞きながら意図的にゆっくりと体を洗っていた。立派な露天風呂ではアルが「ひろいー」なんていいながら待っている。以前ラブホテルでお風呂に入ったことがあるから別にアルとお風呂に入るのが初めてではないし、何度もそういう行為もしているから裸を見たことも見られたこともある。でも今は明るいし、仕事だからとかそう言う建前もないしで恥ずかしさが募っていた。
でもいつまでも体を洗っているわけにはいかない…
タオルでそれとなく体を隠しながら重い足取りで露天風呂に近づく。アルは湯船をぱしゃぱしゃ叩いて俺に入るよう促した。
「お、おじゃまします…」
「…?」
そろっと滑り込むみたいにしてアルの隣に座る。なんだかくっついて座るのも変な気がして少し離れて座った。でもそのせいで逆に気まずい距離感ができてしまった。
「………」
「………」
俺は湯船に浸かって体育座りでそっぽを向き、アルはじーっとこっちを見つめている。
「……なんかちがくない?」
「…う…」
アルの発言にぎくっとするけどバツが悪くてそっぽを向いたまま黙ってた。
「はい、杉田さんこっちね」
「えっ!?っわ!?」
でもそのせいでアルが寄ってきていたことに気づかなかった。突然湯船の中で体が浮いたかと思うとどこかへ移動させられて、気付いた時にはいつものアルの膝の間に座らせられていた。そのことに気づいた瞬間ボッと顔が熱くなる。俺の背中にはぴったりとアルの胸がくっついてるし、腹には腕が回ってるし隣にくっついて座るのなんかよりよっぽど密着していた。
「っふぅ…」
「っあ、ある!」
「きもちいね…?」
「そ、そう…だけど…」
アルの吐息は耳元で聞こえるし、抗議しようと振り替えるとすぐの位置にアルの満足そうな顔が見えるしでうまく話せなかった。
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