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君の記憶

「またね学!!たまにはこっちにも帰ってきてよね!!学ママとパパもきっと会いたがってるよ!!」 「姉貴も久々に会いたいって言ってたんで帰ってきてもしよかったらうちにも来てください」 「あぁ…ありがとう」 「じゃあね学~!!」 健斗がニコニコ笑って手を振るから俺も小さく手を振り返してその日はお開きになった。 そのまま電車に乗って一人暮らしのマンションまで帰る。 「……ただいまー…」 対して何もない独身男のワンルームだった。会社から近すぎず遠すぎずの位置に住み始めてもうすぐ一年だった。 「………」 スーツをかけ、シャワーを浴びてベッドに寝転がる。 ぼんやりと銀のことを思い出していた。 大学を卒業してからお盆も正月も帰省してないのはなんとなく銀を思い出したくないからだった。帰るときに経由する空港でも駅でも家にいたって銀を思い出さずにはいられなかった。 毎回お盆は帰ってくるの?お正月は?って尋ねてくる母に帰らないっていう返事をするたびに罪悪感を感じて親不孝だなとは思ったけどそれでもなかなか帰ろうという気にはならなかった。 ……でもこっちにいるからって銀のこと考えてないかって言われたらそうでもないんだよな… 銀と連絡が取れなくなってから何度か女の子に告白されたこともあったし俺自身もういいんじゃないかと思うこともあったけど、銀を忘れることもいい思い出にすることもできなくて銀のことを思ったまま誰かと付き合うなんて器用なこともできないからいつの間にか恋愛とも遠ざかっていた。 枕もとの机に置きっぱなしにしてた手紙に手を伸ばす。 手に取ったはがきにはウェディングドレスとタキシードという結婚式の装いをした同級生が写っていた、女の子の方はおなかが少し膨らんでいてそこに手を当てている、横には明るい字体で『家族が増えます』と書かれていた。 中にはもう結婚してそれこそ子供がいる奴らもいるんだよなぁ… そっとはがきを机の上に戻す。 ………本当は今頃…銀と一緒になってるはずだったんだ… きゅうっと胸が苦しくなった。 銀… 健斗や猛に久々に会ったせいか銀のことがたくさん思い出されて苦しかった。 銀の声も匂いも肌の感触も…5年たってもずっと忘れてない… 脳裏に顔に垂れたピンク色の髪を邪魔そうにかき上げながら迫ってくる銀が思い出された。 よく銀がそうしていた… 「……ッン…」 ぴくっと違和感を感じて視線をやるとそこが勃っていた。 銀がいなくなったって溜まるものは溜まる… ……明日…休みだしいいか… 起き上がってマットレスの上にタオルを引いてからベッドの下にそっと手を入れた、指先に当たったものを引っ張り出す… それはお別れの日に銀に空港でもらった袋だった。

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