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空気を読まないのんきな誰か

「や、やっぱり銀じゃないのか…って…」 「………」 俺がそう言った途端場の空気が凍って星野さんは何か考え始めてしまった。 アルはしばらく星野さんを眺めてたけど、答えがまだ出なさそうだって思ったのかまたアイスクリームを食べ始めてしまった。 え…なにこの反応… アルは銀じゃなさそうなのに突然銀の名前を出したら空気が一変して焦る。 銀のことやっぱり何か知ってるのか…? 「あっ…あのっ!!」 そう思うといてもたってもいられなくなって思わず振り向いてアルに声をかけてみた。 …っう…顔近い…し、確かに顔はきれいだ… 俺に声をかけられてなんだか眠たいような緩慢な動きで頭をもたげて首をかしげるアルを見てそう思った。 でもアルは何かを知ってか知らずか俺の焦って口を開こうとすると満足そうににーっと笑ってからしーっとジェスチャーで俺を黙らせた。 「…っ」 そうされると何も聞けなくなってしまう。結局俺は星野さんが熟考を終えるまでソワソワしながら待つ羽目になった。 途中でアルはアイスを食べ終えて俺の腹に手を回し、肩を枕にして寝だすし… そして熟考を終えた星野さんはなんだか難しそうな顔をしていた。 星野さんは口を開こうとしたけど俺にもたれかかって寝るアルを見て一旦躊躇って、でも再度口を開いた。 「……今朝から散々お待たせしてすみませんでした…今更ではありますがお名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」 「…え…あ…す、杉田学です…」 「…杉田さん……」 「はい…」 ふーっと星野さんが息を吐く、何が何だかわからなくて困惑して、でもこれから俺が知ることはきっと何かを大きく変えるものだってよくわかってて、そしたら心臓がひどくドキドキしてなんだか苦しくなった。 でもなぜかそんな時にふと背中から一定の鼓動と寝息がすることに気づいた。 一定の穏やかなリズムで刻まれる鼓動に合わせるみたいに俺の鼓動もゆっくりになって行って息苦しさもなくなっていった。いつの間にかのんきに眠っているアルに安心させられていた。 周りの空気や雰囲気を全く気にしない、自分の空気を持ってる誰かがそばにいることに安心したのかもしれない… よし… これから聞くことがどんなことかなんて検討もつかなかったけど腹を決めた。 何を聞いても、どんなことだったとしても…彼の今が知れるなら… そう思って右手でキュッと左手の薬指の指輪を握った。

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