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見る力2
「お腹いっぱいになったらまた眠くなってきた……」
「起きたか人の子」
「失礼致します!幸様、トヨウケヒメがお見えになりしまた!」
「!!其方 の神気じゃと!?一体何があったのだ。洗いざらい話してみよ」
トヨウケヒメは幸を見るなり目を見開いて驚き、早口に捲し立てた。
そこで幸は初めて何が起こったのかを話したのだった。
そして、今まで大切にしていたお守りのことも。
「私が子どもだった時、化け物が見える体質でいつも何かに追われておりました。
化け物に見つかり食べられそうになった時、どこからともなく美しい女性が現れて、それを追い払って下さいました。
そして今はもうありませんが、その時に頂いたお守りには何かの呪い:(まじない)がかかっていて、それを手につけられてからは、化け物などぱったりと見えなくなって…」
「なるほどな…なぜ今まで力が封印されていたのか分かったわ。だが、このままではお前が再び危険にさらされるかもしれん…」
「では、主様にここへ来て頂きましょう!」
「だめだよ柊……。アマテラス様は僕に失望された…お守りを貰ったせいで、あの方の母上を死なせてしまったと言われて…っ」
「そ、それはあの方から頂いたものだったのか!?」
急に立ち上がり、慌て出すトヨウケヒメを見てどれほど重大な話かがよく分かってきた。
「アマテラス様がそれに触れた途端、ちぎれて……それで……それでっ、アマテラス様が苦しそうにして…っ」
「もう良い。大体のことは分かった。思い出そうとしなくていい。心が乱れると神気も濁る」
俯いたまま、布団を握り締めた手の甲が水を弾く。
その幸のようすを見たトヨウケヒメは、頭を抱き寄せ背中をさすってやった。
「横になって休んでおれ。あの時はきっと溜め込まれた力が洪水のように溢れ出て、それに中てられたに違いない。今は小川のようにちょろちょろと溢れておる程度だ。この屋敷にいる間は問題ない」
「屋敷にいる間だけ?ですか?」
「ああ、ここは結界が張られているからな。ここから1歩でも出れば、喰われて死ぬ。危険な状態だ。匂いに誘われて奴らが既に集まっているかもしれん」
『奴ら』の意味が今の幸には理解できた。
それは、またあの恐怖が訪れようとしていることも意味していた。
「大丈夫ですよ、幸様。何かあればきっと主様が守って下さいますから」
母親の死の原因となった者がすぐ側にいて、ましてや人間だったなんて知ってしまったら、守るなんてことはしたくないはずだ。
明るく励ます柊の言葉も、今は傷口に塩を塗る行為でしかなかった。
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