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見る力
目を開けると、知っている天井なのに知らない光景が映っていた。
何か綿のような半透明の物体がふわふわと無数に浮いている。
形も大きさもさまざまで、人の背丈ほどの大きさのものから、塵のような小さなものまでゆっくりと風を受けて泳いでいるように通り過ぎる。
恐怖を感じることもなく、なぜか既視感があった。
頭の中にある記憶の引き出しを探っていると、目を覚ましたことに気づいた柊が泣きついてきた。
「ゆきさまぁああ!!!!お加減はいかがですか!?トヨウケヒメがお粥を作ってくださいましたよ!」
「つ…っ!ひいらぎ、うるさいっ。何事?」
「私が戻ると、主様はいらっしゃらないし幸様は急に倒れられて…もう心配で心配で!!トヨウケヒメも取り乱しておりました」
「そうだったんだ…ごめんね。トヨウケヒメにも謝らなくちゃ」
頭を押さえながら体を起こそうとすると、柊に制止された。
「いけません幸様!安静にしていなくては!!」
「あれ?力が入んない…あれ、どうして?柊に耳が生えてる…」
「!?幸様…見えているのですね。この柊の正体が…」
普通に会話をしていて気づくのが遅れたが、なぜか柊は幸に近づいても苦しまず、普段通りの様子だ。
あれからアマテラスはどうなったのだろうかと心配になってきた。
「私の正体は狐、伏見稲荷大社で奉公をしている見習い狐です。うまく変化していたのに見破られるとは、幸様の神気は強力なのかも知れませんね?」
にわかには信じ難いことだが、その話を真実だという前提で話を進める。
アマテラスも柊も口にする「神気」についても気になった。
「見習い狐の柊はどうしてここへ?」
「アマテラス様の命による幸様のお世話係の選抜で私が選ばれたからです」
「ねえ、僕の目が変なのかな?何かふわふわしたものが見えるんだけど…」
何度目を擦っても映るものが同じだ。
頭でも強く打って幻覚が見えるようになったのだろうかと心配になってきていた。
「それはきっと蟲 でございます。人間が指す虫と同じようなものですが、あの虫と違って全く害はありません。澄んだ神気がある場所に集まってくるのです」
「さっきから言ってる神気って一体何?」
「それは後からゆっくり説明させて頂きます。お粥が冷めてしまいますから、お加減がよろしければ召し上がって下さい。私は早速トヨウケヒメへ報告に行ってまいります!」
丁寧に礼をするとゆっくりと立ち上がり、バタバタと足音を鳴らして消えた。
柊が去る時に隙間から見えた庭は今日も美しく、幸の心を落ち着かせた。
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