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母なる神気2
ヤタガラスがアマテラスに肩を貸し、そのまま消えてしまって幸は独り取り残された。
柊が買い物へ言っているのでしばらくは帰って来ない。
この状況をどうすれば良いのか考えることもできなかった。
「絶対幻滅された…っ。どうしよう…このままじゃここから追い出されるっ」
アマテラスに幻滅されたと確信し、目の生気が消えてゆく。
あれだけ怒り拒絶しているのだ、もうここには訪れてくれないだろう。
それ以前に、ここから追い出される可能性の方が高いんじゃないか。
「う…うぅっ、ぐすっ、えぅ……」
自室に戻り部屋の片隅に座り込みむ。
拭っても拭っても溢れる涙を止めることはできず、ただただ悲しくて、終いには何がどう悲しくて泣いているのかすらわからなくなった。
なぜ泣いているのか分からなくなっても涙は止まることなく頬を伝い続ける。
袖がじっとりと濡れて、まるで洗い終わったばかりの洗濯物のようだった。
「ただいま戻りましたー!幸様、今日は街でお団子が売っていましたよ!…幸様?」
この屋敷がいつもと違う雰囲気なのを察知したのだろうか、すぐさま幸を探し部屋を見て回る。
見つけられたくない。
見つけないでほしい。
見つけて。
助けて。
思いが交錯し、アマテラスやヤタガラスと同じ目で見られるかもしれないという不安が幸の胸を押し潰す。
「いやだよぉ…っ!何でいつも僕ばっかり!」
斎王の役目もそうだ。
幸にばかりすべてを押し付けて、他のものは皆一安心という顔だった。
同世代の子どもは成長していくにつれて幸と異なる格好をしていく。
いや、幸が異なる格好をしていたのだ。
「もう…僕の居場所なんてどこにもないじゃ……」
また悲しくなって涙が溢れ出る。
「幸様!!こんな所にいらっしゃったのですか?」
「柊!僕に近づいちゃダメ!!!」
御簾を上げてこちらに来ようとする柊に叫ぶ。
こんな情けない姿を見られたくないし、柊までアマテラスのように具合が悪くなられたら、幸の心は壊れてしまいうな気がした。
「お体が優れないのですか?
…何だか幸様の雰囲気が違うような…?」
「だ、大丈夫だけど来ちゃだめ!さっきアマテラス様が…僕のせいで…だから!!
その時の初めて顔を上げて柊を見た。
変わっていたのは幸だけではなかった。
「柊…その頭の上の耳…何?」
視界が大きく揺れ、目の前の奇妙な柊の姿も霞んでゆく。
なぜか体の力が入らなくなり、目の前の景色は横向きになり下へ下へと落ちてく。
そこでやっと自身が床に倒れたのを理解した頃にはほとんど意識を失っていおり、最後には慌てて駆け寄る柊の足が見えた。
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