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不安定な身体※

「……目が覚めたか。具合はどうだ」 あれからどのくらい眠っていたのだろう。 当たりは真っ暗で、月光の淡い光が差し込んでいるだけ。 そして、声の主はアマテラスだった。 「あ、あ…アマテラス様…」 一気に眠気が飛んでいく。 そう言えば、アマテラスがこちらに帰ってきた時に林檎を食べる予定だったはず。 なのに今はもう夜だ。 いつからアマテラスは傍に座っていたんだろうか。 「昼間は取り乱して悪かった。大事ないか?」 「ちょっと熱っぽくて…あの…」 「もうよい、事情はトヨウケヒメから聞いた。…その昔、母上は火の神であり、俺の弟になるはずだった赤子を生んだ時に全身を大火傷した。父上がそれに怒りを露わにして赤子は殺された。人間の歴史では、そこで母上は死んだとされていたが、実はずっと誰も知らぬどこかで静養しておったのだ。 きっと静養中に出会った人の子が幸だったのだろうな…。そして、人の子としてはあまりにも膨大すぎる神気を封じ込めて助けたために、力尽きたのだろう。 俺は…母上が助けた命をもう少しで失うところだった。そうなれば、黄泉に行ってしまわれた母上に顔向けができん」 「でも……(わたくし)は結果的にアマテラス様の母君を…」 「その話はよいと言っている。この神気が本来お前が持っているものならば、とっくの昔に食い殺されているはずだ。 母上の守護が心身に影響を与えたに違いない。そうでなければ、この匂いを隠せるわけがない…っ」 時折何かに耐えるように話すアマテラスの言葉は重たく感じた。 急に熱に浮かされて、ぞくぞくして火照る体の異変と何か関係があるのだろうか、と考えを巡らせる。 「におい…?」 「濃密な精気に満ちた血肉の匂いだ…今のお前は危険でしかない。俺でもクラクラする…」 そう言うと、幸の顔に影かかかった。 そして、吸い寄せられるようにアマテラスが幸の唇を塞いだ。 「ん!?ふぁ、む…っん、ぁ」 「極上だな…吸い尽くしてしまいたくなるわ」 「や、だ…からだ、あ、つい…っ」 口付けられた瞬間、幸の中で何かが爆ぜ溢れた。 みぞおちの辺りがモヤモヤとして、下腹部がじくじくと疼きだしたのだ。 今までに感じたことがない程の焦燥感の理由が分からず、動揺して何も考えられなくなっていた。 「辛いのか?俺に全てを委ねろ…楽にしてやる」 頬を伝い、アマテラスの掌がゆっくりと首もとへ下りてくる。 幸の体はそんな小さな刺激も甘い痺れに変わってゆく。 (…そうだ。僕の仕事はアマテラス様を奉仕すること。これが本来の斎王の役目…) アマテラスの妖しく光る瞳に視線を縛られる。 そんな中、いつか柊に言われた言葉を思い出し、服従の意を込めて首元をアマテラスに晒した。 「なんだ。拒まぬのか」 「これが本来の役目…でしょう…っ?」 「……戯け!そんな役目をお前に一度として課したことがあるか。そんなに身体を暴かれたいなら望み通りにしてやろうか!?」 急に怒りを顕にしたアマテラスを前に、昼間の光景がフラッシュバックする。 まるで威嚇する獣のようで、幸はひゅっと息を呑んだ。 「この愚か者め…」そんな呟きが聞こえたかと思うと、幸の白く細い首に歯が突き立てたれた。

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