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後朝の別れ
目が覚めると枕元に柊がいた。
アマテラスはとうの昔に出て行ったのだろう。
幸の寝ている傍らはひんやりとしていた。
「おはようございます、幸様。お加減はいかがですか?」
「ひいらぎ…」
上手く声が出ない上に、しゃがれ声になってとてもみっともなくてすぐに口を噤んだ。
「お白湯でも飲まれますか?お茶がよろしいですか?林檎もございますよ」
「お水がいい…林檎、欲しい」
「起き上がれますか?」
自分の力では起き上がることすらできず、ほとんど柊の力で抱き起こされた。
起きようとすると、腰に激痛が走り筋肉が悲鳴をあげるのだ。
今日一日は寝たきり状態で過ごすことは明確だろう。
喉を潤し、柊の小さな手で剥かれた林檎を受け取り一口齧る。
蜜の詰まった林檎の甘い果汁が口の中にふわりと広がり、シャリシャリと気持ちの良い音を立てる。
柊曰く、林檎の皮で作った耳のある動物は兎ではなく、狐を見立てたものらしい。
「ありがとう柊、心配かけてごめんね」
「とんでもございません!幸様がご無事で…いつもの幸様に戻られて…っ、嬉しいっ、です!」
えぐえぐと男前な泣き方をする柊に笑ってしまいながら頭を撫でて落ち着かせる。
幸が起きるまでじっと傍を離れないで見守ってくれていたのかもしれないと思うと、申し訳なさと嬉しさで胸がいっぱいになる。
健気な柊をより一層可愛らしく思った。
「ところでアマテラス様は…?」
「朝早くに高天原に向かわれました。今日はもうお戻りになられないそうです」
「……そっか。僕はどうなるんだろう。追い出されるのかな…」
「そんな筈はございません!アマテラス様は幸様のこと大層心配しておいででしたから」
柊の言葉通りアマテラスは幸の元を現れることは無かった。
しかし幸は、そのことに心のどこかで安堵していた。
あんなことがあった後、どのような顔をして会えば良いのか、どのように話せば良いのか分からない。
明日になれば普段通りに顔を合わせられるのかといえばそうでもなく、悶々としてなかなか寝付くことができず、ずっと空間を漂う蟲を眺めていた。
そのせいで、柊に余計な気を揉ませしまい、ずっと付きっきりでお世話をしてくれている柊を満足に寝かせられなかった。
ここへ来てから毎日不満なく穏やかに暮らしていたが、今日ばかりは憂鬱で今すぐに消えてしまいたいくらいだった。
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