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隠された理由

「起きたか、幸」 「ん…はい、おはようございます」 目を擦りながらゆっくりと起き上がる 着崩れた寝衣の隙間から見える胸元に視線を感じて、幸は直ぐに襟を正して顔を洗いに行った。 いつも通り食事をとる部屋に行くと、アマテラスはもう座っており、トヨウケヒメや柊が膳を運んでいるところだった。 「おはようございます、幸様!」 「おはよう柊。トヨウケヒメもおはようございます」 「食欲がないとのことだが、大事ないか?」 「な、なぜそれを…っ」 ギクリとしたのをアマテラスとトヨウケヒメにクスリと笑われてしまい、首を竦めながら席に着く。 「全て柊から聞いておる。心配させたようだな…。全ては、其方のためなのだ」 「わ、私のためとは一体どのような…?」 「ああ、あの日の一件で他の神々に母上のことが知れ渡ってしまってな。 八咫烏がことを荒立てたせいでイザナミ殺しと吹聴されてしまって大騒ぎだ…実はお前の命が危なかった」 「え…っ?」 「他の神々から幸の断罪を強く迫られた。もちろん、成り行きを説明すれば分かってくれた者もいたが、母上はあの国生みの女神だ。人間にその力が宿っていることを良しとしない物もいるのだ」 「そ、そんなことがあったなんて…」 幸にとってはもう食事どころではなかった。 縁側を眺めている間、柊と茶菓子を食べている間そんなことが起こっていて、それをアマテラスが何とか救おうとしてくれていたことに絶句した。 のうのうと息をしていたことすら恥ずかしくなる程だった。 「幸が責任を感じる必要はない。もう済んだこと。お前は普段通り俺に構っていれば良い」 「私もアマテラス様にお力添えができ、幸を守れたことを誇りに思っている。案ずるな」 「アマテラス様…トヨウケヒメ…」 「さあ、主様、幸様、お食事が冷めてしまう前にお召し上がりくださいませ」 柊の一言で、食事が再開され、それ以降幸の話にはならなかった。 アマテラスが帰ってきて安心したのか、以前のことが嘘のように食欲は戻っていたのだった。 幸の食欲にアマテラスも安堵している様子だ。 「幸、この後何する予定だ?」 「予定でございますか?えっと……特には…」 「では、辺りの散策した後、縁側で茶でも飲むとするか」 「へ…っ?外へ出るのですか…?」 「何だ?散歩は嫌いか…」 「いえ、アマテラス様の外出にご一緒するのは初めてですし、突然のことで少し驚いてしまったのです…」 幸の本心は、アマテラスが散歩をすることに驚いていた。 しかし、数回縁側でお茶をしていた程度の戯れが、突然屋敷の外へ出るなど幸にとっては驚きしかない。 (と、とにかく柊に相談しないとね…) あと片付け中の柊の手を止めさせてでも相談しなくては、と強く思う幸なのだった。

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