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本当の意味2

「幸、俺はお前を伴侶にする」 その言葉に頭が真っ白になった。 状況を飲み込めず、アマテラスの美しい顔をただただ見詰める幸。 「あの時は真の役目を知ってか、生け贄のように身体を差し出そうとしたから、ついこちらもカッとなってしまったが…その役目を押し付けようなどとは思っていない。 折を見て話すが、お前は今までの斎王とは違い特別だ。 誤解だけはしないで欲しい。その課せられた役目があるからではなく、幸のことを愛しておるのだ。 そういう意味で俺は『愛し子』と言った。あの夜もな…」 夢で逢っていた頃、アマテラスは麗しくも儚げな幸にとても惹かれていた。 健気で何者にも汚されない美しい善の心を持つ幸の傍はとても居心地がよく、甘美な時間だった。 知らず知らずのうちに、愛に飢えて苦しんでいる幸の気持ちを垣間見るようになり、アマテラスはどうしようもなく愛を教えてやりたくなったのだ。 「幸のことだから、いつまでも遠慮して振り向いてくれぬと思ったしな。 そこがまたいじらしくて良いんだが」 「……」 とびきり優しい眼差しでずっと頬を撫でていた手が離れた。 頬の温かみを少し離れがたく思ってしまい、その気持ちにも戸惑ってしまった。 「焦ることはない。すぐに答えを出せということではなく、少しずつ受け入れていって欲しい。願わくば、幸が俺と同じ気持ちになって欲しい。俺はいつまでも待つ。伊達に神をやっていないからな」 冗談めかして笑いを誘いながら、堅苦しく考えないようにという配慮を感じ取った幸はなんだか嬉しいような、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「そろそろ戻るか。冷えてきた」 「…はい」 気遣うように自然な仕草で腰を引き寄せられ、緊張のあまり体がぴくりと反応する。 アマテラスの馨しい(かぐわしい)香りが幸をも包む。 「ふふっ、顔が赤いぞ幸?」 「み、見ないで下さい…っ」 「そんなこと言われてはますます気になって見てしまうのが男なのだぞ?」 「え、っと…恥ずかしいです…」 消え入る声でそう告げると、またアマテラスは優しく笑って可愛らしいと言ってきた。 あの夜と同じ香りにどぎまぎしながら、アマテラスに寄り添って家路をゆったりと歩いた。 「幸、お前は愛されることを、愛されていること知るべきなのだ」 「……?」 「まあ良い。これからたっぷり教え込んでやる」 そう言いながらアマテラスは右の口角を上げた。

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