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「すまない、嫌だったか…?」 「えっと…あの」 「嫌そうな反応ではないな」 静かに微笑むアマテラスにドキリとした。 意気揚々とお茶を運んできた柊に甘い雰囲気は攫われて、幸は内心ほっとする。 あれ以上のことを望まれては、自分の立場では断れなかったからだ。 今後も隙あらば触れてくるであろうそれをどう対処すれば良いのか検討もつかなかった。 「お邪魔でしたでしょうか?」 「そう思うならもう少し後でも良かったのだぞ」 「大丈夫だよ、柊。気にしないで」 幸にとっては救世主だったのだ。 いつも以上に笑顔で礼をいい温かいお茶を受け取る。 「もうすぐ昼食の準備が整いますので、それまで少々お待ち下さいませ」 「ああ、頼んだ」 「ありがとう、柊」 「では、失礼致します」 また二人きりになってしまった。 しかし、今度は何事もなくただ他愛ない話をした。 身構えているのが分かったからか、アマテラスは一瞬でも幸に触れようとする仕草は見せなかった。 話の内容は専ら庭の草花のことについてだった。 アマテラスは今庭に咲いている花や木々の説明をしてくれた。 幸が気になっていたあの池の魚のことも聞いた。 あの魚は千年魚(せんねんうお)と言って千年の時を生きる魚らしい。 千年間をかけて少しずつ色を変え美しい姿に成長していく不思議な魚で、極一部の地域の水でしか暮らせないとても貴重な生き物だった。 他にも千年に一度咲く桜のような木や、百年さき続ける花もあるらしい。 どちらも特徴から名前を取って千年樹(せんねんじゅ)、百年続草(ひゃくねんぞくそう)というなんとも安直な名前がついている。 「季節感のない庭もそろそろ飽きただろう。他の庭も見てみたくはないか?」 「私はこの庭が一番好きです。でも、せっかくですし、他の季節のお庭も見てみとう存じます」 「案外他の庭も気に入るかもしれんからな?」 今の季節は秋だから、庭も秋にしようということで、秋っぽい庭になった。 色鮮やかな草花は苔むした岩になり、地面は辺り一面鮮やかな朱や黄、紅といった色の葉で覆い尽くされ、先程まで植わっていた木々は、紅葉に似た木々に変わった。 紅葉の葉は子どもの掌のような形をしているが、この葉は三日月の形をしている。 よく見ると、朱色の桜のような木まであった。 新しい庭には鹿威しの美しい音が響き渡る。 「全く馴染みのない植物なのに、どこか懐かしい感じがして心地良いです。この庭も好きです」 「そうか。喜んでもらえてよかった。池はそのままにしてあるから、また餌やりもすればいい」 「はい。感謝申し上げます。お庭の観賞もまた楽しくなりそうです」 喜びと感謝を伝えると、アマテラスは満足そうに微笑んだ。

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