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初めての町

「ゆ…っ、おっと。紫様、これから町へ降りようと思うのですが、紫様もいかがですか?毎日ここにいては気も滅入ると思ったのですが……主様のお許しが必要です、よね…」 昼食を終え、アマテラスと縁側でお茶を楽しんでいると柊にそう声を掛けられた。 柊が尻込みしてしまったのは、幸の隣りに座っているアマテラスに遠慮したからだろう。 アマテラスは幸がうなされて再び身体を繋げて以来、以前にも増して幸を気にかけるようになった。 こうして(まつりごと)の休憩と言い張って幸と昼食を共にし、食休みをしている。 ほかの神たちに何も言われないのか少し心配なところだ。 「外へ出て光様にご心配をおかけする訳には…それに、生まれてから一度も町を歩いたり人目に付くようなことはしたことがないから…柊だけ行ってきて。気を付けてね」 「そ、そんな!?本当に紫様は一度もお買い物などされたことないのですか…?」 「うん。貴族の女性たちは姿を見せてはいけないって言われてるし、女性と同じように立ち振る舞わなくちゃいけなかったから…どんなところかもよく知らない。興味はあるけれど少し怖いな」 「町は楽しいですよ!?紫様お願いです。一緒に行きましょう?楽しいことたくさんご紹介させて頂きます!主様、何事もなく無事に紫様をお返しいたしますので、お許し頂けませんでしょうか?」 「紫、町は気になるか?素直な気持ちを言ってみろ」 温かな眼差しを注がれ、本心を口にせざるを得なかった。 何を言っても許されるとその目で理解したのだ。 「町に、行ってみたいです…本当は光様と一緒に」 「愛いやつだな。その言葉だけでもうれしいぞ紫。柊と楽しんでくるがいい。何かあったらすぐに俺の名を呼べ。いいな?」 「は、はい…っ」 「次に町へ行くときは俺とだぞ?約束だ」 優しく頭を撫でられ、町へ行くことを許可された。 破顔したアマテラスを見て頬を赤く染めながらもう一度頷いた。 もし町へ行くなら…そう思ったとき、真っ先に浮かんだのがアマテラスの顔だった。 アマテラスとならきっと不安もないし、一緒に何でも喜んでもらえると思ったのだ。 その気持ちを言葉にするとアマテラスは嬉しそうに顔を綻ばせて、幸自身も嬉しくなった。 「あの、いつも柊がお団子やお饅頭を買ってきてくれるお店があるので、こ、こんどっ、そのお店に一緒に行って頂けますか…?」 「もちろんだ。今日柊と行って予行演習でもしてきてくれ。お前のおすすめも教えて欲しい」 「承知しました」 「良かったですね。紫様!町の良いところをたくさんご紹介致します!そうと決まれば支度をせねば!」 幸以上に張り切って嬉しそうに声を上げる柊。 子どもらしい振る舞いにアマテラスと顔を見合わせてくすりと笑った。

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