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初めての町2

「よろしいですか、紫様。町は楽しいところですが、自分の立場も弁えられないような輩もいることをお忘れなきよう。 決してお傍を離れないでくださいね?私が主様にこっぴどく叱られてしまいますから、私を助けると思って、勝手な行動は慎んで頂きたく――」 「わ、分かった!分かったよ…勝手にどこにも行かないから…っ!もう行こう?」 幸のために真剣に言っているのだが、話が長くなりそうなため、話を遮ってなんとか説教じみたことを終わらせた。 幸は長々と講釈を垂れているのを聞くのが嫌いだった。 男なのに、『女性というものは…』と枕詞をつけてなんだかんだと言ってくる侍女がいて、その長い長い説教を聞いている時を思い出すからだ。 「それもそうですね、説教じみたことを長々と申し訳ございません。早速出発致しましょう」 元気よく出発の合図を告げた柊の後ろを付いて行く。 町はこの神宮を出てすぐの所にあるらしい。 初めてここへ着いた時も籠の中にいたため、道中の景色はほとんど分からなかったので、町のようすは覚えていない。 「まずは、今日の夕食の食材を調達します。そのあと、色々巡りましょう」 「うん、分かった。今日の献立は何?」 「ふふ~ん。秘密でございます!買った食材で今晩の献立を当てて下さいませ!」 「うーん、僕に分かるかな?」 いつものように他愛ない話をしていると、町が見えてきた。 (こんな景色だったんだ…) 人行きかいがやがやしている。 大声を張り上げる人、犬の鳴き声、様々な音が一気に幸に押し寄せてくる。 幸はこんな活気のある場所だとは思いもしなかった。 「わぁ…」 「紫様、人が多いですので決して私を見失わないでくださいませ!こちらですよ!」 柊が左を指し、別の通りへ入っていく。 そこは、魚、野菜、米、豆腐、酒と食べるものが売っている通りだった。 両側から客を誘い込む声がひっきりなしに聞こえて、幸はこんな喧騒に慣れておらず少し恐怖を抱いた。 「おじさん、こんにちは」 「おお!屋敷の奉公の!」 「柊です」 「そちらは、屋敷のお姫様か?」 「紫様です。私は紫様の付き人なんです。今日は初めてお外に出られてこうして町のようすを見学に来られたのです! 今日も一番高級なもの買わせていただきます」 「今日の一番は(かつお)だ!こんな別嬪なお姫様にお会いできたんだ、一匹の値段で二匹やるよ!持ってきな!」 よく日に焼けて体格の良い四十代くらいの男性は、気前が良くとても優しい人だった。 次に行った八百屋の女性も、幸が美しいと理由で野菜の値段をまけてくれた。 「紫様と買い出しに行くとこんなにお得なことがたくさんあるのですね!もう毎日でも一緒に行って頂きたいくらいです!」 「毎日おまけをくれるかどうかは分からないよ…?」 「ですが、私は紫様の付き人をしているとみなに自慢できて嬉しゅうございます!」 おまけをしてもらったおかげで大荷物になって大変そうな柊を手伝おうとしたが、柊に頑なに拒否され、申し訳なくなりながら食べ物の通りを歩いて回った。

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