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初めての町3
「さてさて、用も済んだことですし、お待ちかねの町巡りをしましょうか!」
「やった!」
「紫様はどこか行きたいところはございますか?…と言っても、ここに来られるのが初めてでなのでしたね」
「あ、いつも柊が買ってきてくれる茶菓子のお店に行きたいな。そこしか知らないから、他も見てみたい。光様と来られるように、色々教えて欲しいな…」
こんなことを柊に言うのは少し気恥ずかしかったが、幸にとっては大切なことだった。
あのアマテラスが、自分のわがままで人間の町を一緒に出かけてくれるのだ、少しでも楽しんでもらわないと、アマテラスのせっかくの好意を無駄にしてしまう。
「初めて紫様がお誘いした逢瀬ですから、とびきり特別なものにせねばなりませんね!」
「そ、そんなつもりじゃ…っ!」
「何をおっしゃいますか!紫様だって、主様のお傍にいることをお望みではないのですか?主様は本当に紫様のことを思っておられます」
「そ、そんな!恐れ多いことを!
確かに、光様は僕に大変良くして下さるし、優しいお言葉をいつも僕に下さるし、美しくてとても魅力的な方だけど、僕は斎王で光様に奉仕すべき身分だから。
だから、伴侶とか言われてもどうしたらいいか分からないし。
本当はあんなことはしちゃいけないんだ…」
何度か過ごした夜のことを思い出し、顔が茹で上がる。
そんな幸を見て軽く笑っていた柊が真剣な顔をした。
「主様は紫様に愛を教えてやらねば、といつもおっしゃいます。
自分を犠牲にしてまでここにやって来ているのを分かっていながら、どこまでも自分を卑下する。だから、自分を大切にすることを、自分が大切にされることで教えてやらねばならん。と主様は零しておられました。」
「……っでも」
幸はそう口にして、自分はアマテラスと釣り合わないということを言いかけた。
「主様は本当に紫様のことを愛しておられるのです。例え、人間と神、立場が違っても伴侶にしたいと思うほど、紫様のことをとても慈しんでおられるのは、ご自分でも少しはお分かりになられておいででしょう?
紫様は、この主様のお気持ちを恐れ多いなどと理由で片付けて、逃げてしまってはおりませんか?どうであろうと自分の気持ちを持って向き合って差し上げないことこそ、不敬ではございませんか?」
幸はぐうの音も出なかった。
確かにアマテラスの気持ちに対して一度も受け止めようとはしていなかったし、自分の気持ちはどうか問うてみることもしていなかった。
アマテラスの告白は幸にも受け止められず、宙ぶらりんな状態だ。
幸はどうしたら良いか分からなかった。
自分の気持ちさえもよく分からなかった。
「…柊の言う通りかもしれない。
光様に謝らなくちゃ…。でも、でも…僕は自分の気持ちが分からない。
光様は僕にこれ以上無いくらい良くしてくれて、優しくて素敵だけれど、憧れとか尊敬の気持ちばっかりで、急に言われても受け止められなくて、どうしたらいいか分からないんだ…ねえ柊、僕はどうしたらいいのかな?」
「今のお気持ちをそのまま主様にお伝えしてみてはいかがでしょうか?きちんと向き合うことが何より大切でございますよ!素直な気持ちを告げれば、主様との距離も縮まるかと!
それに、今後、紫様がお気持ちを受け入れられるよう、努めて下さるのではないでしょうか?」
「そ、そうかな?
とにかく帰ったら僕の素直な気持ちを伝えてみることにするよ」
どうにかして幸とアマテラスをくっ付けたい柊は、途中から鼻息荒く語りだした。
その迫力に気圧されながらも、柊の助言通りにやってみることにした。
「そうと決まれば景気付けに一番美味しい茶菓子をたくさん食べねばなりませんね!」
「それって、柊がいっぱい食べたいだけじゃないの…?」
「ぎくっ!」
「ふふふ、怒らないよ。美味しいものたくさん食べようね」
にこりと笑みを返すと、柊はほっとして「はい!」と元気な声と共に幸を先導した。
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