今日も寝るのはアマテラスの隣りだった。 いや、初めから幸の隣りにアマテラスが勝手に寝ているのだ。 もう何度も何度も繰り返されたことでいちいち反応をしなくなった幸―― 今日は特にアマテラスが隣りで寝てくれる方が安心して眠れそうだ。 昼間はアマテラスの腕の中は『安心』したが、今はどうだろう、同じ腕の中なのに胸がとくとくと早鐘を打っている。 これも世間とは離れて生活をしていた幸には理解できなかった。 「あの、光様…」 「ん？どうした？眠れぬのか？」 手入れしたての髪を白く細長い指で梳かれる。 漆のように美しいと褒めてもらえるので、幸はこの長い髪も以前よりずっと好きになれそうだった。 「私は…ずっと光様のお気持ちから目を背けてきました。私のようなものが、光様のお気持ちに対してどうこう言うことなど不敬だと思っておりました。 しかし、柊にそうして光様の言葉を受け入れないことこそ不敬ではないかと指摘され、私の気持ちをお伝えせねばと思うのですが…」 「ほう…」 「…ですが、分からぬのです」 「何が分からぬのだ？」 「光様への気持ちです。光様はこんなにも私に対して好意を寄せてくださっているのに…っうぅ、ぐずっ、わらくしは、さいていれす…っ」 アマテラスの気持ちに応えられない罪悪感だけでなく、自身がその気持ちを利用してぬくぬくとすごしている気さえしてきて、幸は自分自身を許せなかった。 「泣くでない。俺が焦って気持ちをぶつけ過ぎたのやもしれぬな。今は、こんなにも思うてくれておるその気持ちだけで十分だ。俺の紫…己の気持ちが分からなければ、分かるまで待つ。 最初もそう告げただろう？ 無理に受け入れる必要はないと、少しずつ受け入れて言って欲しいとも」 「う、うっ、はい…っ」 背中をさすられながら、アマテラスの穏やかな声音に幸は宥められる。 こうしていつも面倒をかけてばかりで、また罪悪感が膨らんでしまう。 それでも見放そうとしないアマテラスは何と慈悲深く、温かいのだろうか。 アマテラスが幸に対してあまりにもたくさんの気持ちや感覚を教えてくれるせいで、またアマテラスへの気持ちが分からなくなりそうだった。 「俺は紫に好いてもらえるように世話を焼いているのではなく、好いているから世話を焼いてしまうのだ。 『愛』や『恋』というのは、対価を得られなくとも想い人に対しては、何でもしてやりたくなってしまうものだ。 だが、なぜだか時に想い人の身体や心を欲してしまう。身体を繋げることは、想い人にしか許さない者もいる。 動物とは違って人間は本当に不思議だ。 また不思議なことに、手を繋いだり、接吻したりそれだけで満たされるものがあるのだ。 『愛』『恋』とは複雑怪奇でとても尊いものなのだ。紫にもその素晴らしさが分かる時が来るだろう」 「…私、このような姿でいるのに、露骨に情欲を向けられるのは、生まれて初めてだったのです…。これからされてしまうことを思うと、恐ろしくて恐ろしくて堪りませんでした。 光様と経験ある行為でも、同じとは思われなかったのです…これは、『愛』でございますか？『恋』でございますか？安心感といい、この気持ちといい、一体何なのでございましょう？」