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悪神
あの許し難い男たちとの遭遇より数日が過ぎた。
しばらくは神経質になっていた幸だったが、アマテラスがずっと傍に付き添っていたおかげか、普段通りに生活ができるようになってきた。
あのような身の危険に遭ったにも関わらず、必要以上に恐怖の色を示さなかった代わりのように、幸はアマテラスが傍にいることが多くなると、後追いをするようになった。
「おはようございます、紫様」
「紫、すまんな。よく寝ておったゆえ、何だか起こすのが忍びなくてな。一人にして悪かった」
「…いえ、おかげで目覚めが良いです。ありがとうございます」
「朝食は用意できている。ここへ来い紫」
アマテラスは嬉しそうな顔で手招きをして、自分の隣の座布団をぽんぽんと叩く。
幸もはい、と素直に従ってアマテラスの隣に座って柊の運んでくれた朝食を食べ始めた。
その間もアマテラスは目を細めて幸を見守る。
対面で食べていたのがアマテラスの我儘からなのか、いつの間にやら並んで食事をするようになった。
「ふふふ、そう拗ねるな。上手いか?」
「はい、美味しゅうございます」
「ん、そうか。今日も愛らしいな、紫」
「………っ」
幸はどう反応して良いのか分からず、ただ赤くなった顔を伏せて黙々と朝食を食べるしかなかった。
「主様、今の紫様は拗ねておられたのですか!?私にはちっともそのようには…!」
「うむ、幸の感情が豊かになってきたのでな、何となくだが分かる」
食事中の幸を愛でながら得意そうに答えるアマテラスと、それを感激して目を輝かせている柊の図はとても滑稽だ。
「お言葉ですが、私は元から感情は豊かでございますよ?」
「何を言う。感情が豊かなのではなく、穏やかだっただけだ。お前の中には『喜』と『楽』しかなかったぞ。他の細かな感情も学んだお前は以前にも増してとても魅力的だ」
また歯の浮くようなことを告げるアマテラスに困った幸は咄嗟に話を逸らした。
「あ、あの…ずっと気になっていたのですが、あの男たちは死んだのですか?急に倒れてしまいましたが…」
「死んではおらんぞ。ただに一生に与えられる運を全て奪っただけだ」
「運を奪えるのです!?」
簡単に言ったが、幸にとっては受け流し難い内容だった。
ただ話を逸らそうと話を振ったが、朝食の場で話すにはとても物騒な話の内容のような気がする。
些か話題の選択を誤ったのかもしれない。
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