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悪神2

「俺の中の『悪』の性質を使って運を全て取り上げ、『善』の力を使って他の者に少しずつ分け与えた」 「『善』とか『悪』とか一体どういうことです?」 「私がご説明致しましょう――」 柊の説明によれば、アマテラスには『善』と『悪』の性質があるという。 『悪』の性質は災いをもたらす荒御魂(あらみたま)と言われる。人々によって同じように大切に祀られてあるが、実はこの性質は穢れによってアマテラスを悪神に変えてしまうのでとても厄介なもだという。 『善』の性質は恵みを与える和御魂(にぎみたま)と言われる。おそらく人が信仰しているのはこちらのアマテラスだろうと考えながら幸は柊の話を聞く。 いつもは『悪』の性質はアマテラス自身の力で抑えてあるらしいが、感情が昂ったりすると荒御魂の力が漏れ出てきてしまうとアマテラスが零した。 「この力を私利私欲に使うのは気が引けていたが、あの時はそんなことを思う自分はどこにもいなかった。 怒りでどうにかなりそうになったが、紫が無事であるのと、俺の醜い姿を知られてしまうことが恐ろしくて直ぐに頭が冴えた。 …ほんの一瞬でも怒りに呑まれた俺を見ただろう。恐ろしいとは思わなんだか?」 「いえ。私の代わりに…私のためにそのように思って頂けてとても嬉しいと感じました。光様を思いながら呼びかけると、直ぐに駆け付けて下さって、助けていただけたことが嬉しくて…」 「そうか、ならいい。やはり紫には敵わんな…」 楽しそうに笑うアマテラスに首をかしげながら幸は朝食を完食し、柊に礼を言って膳を下げてもらった。 「よし、腹も満たされたことだ。紫、少し付き合ってはくれんか」 「はい、私にできることなら何でも」 「会ってもらいたい者がいるんだが、良いか?悪い奴らではない、怖かったら怖いと素直に申すのだぞ?」 「はい、承知致しました」 アマテラスに促されるまま庭に出る。 一体今から何が起こるのだろうかと幸は不安になりながらアマテラスの傍に立っていた。 「力器(りっき)千器(せんき)」 「「はっ」」 アマテラスが呼びかけると、突然立て膝をつき頭を垂れる男女が姿を現した。 「我が主、何用でございましょう」 大男が野太い声を出し、アマテラスの顔を見詰めた。 「んな!!なぜ貴様がここにいる!アマテラス様に呼ばれたのはこのアタシだ!」 「何を言っている、先程名を呼ばれたのはこの俺だ!」 顔を見るなりお互いに目をつり上げて牙を向き合っている。 幸でも仲が悪いのだろうとすぐに分かった。 「お前たち、紫が怖がっているではないか。毎度毎度、呼ぶ度に喧嘩をするなと言うておるのに…」 「「申し訳ございません…」」 呆れたように溜息を漏らすと、どちらも申し訳なさそうに小さくなって深々と謝罪をした。 「驚いたか、紫。こいつらは俺に仕えている神のうちの二柱だ。 この大男がアメノタジカラオノカミ。 怪力の持ち主だ。普段は温厚なのだがな… こちらのタクハタチヂヒメノミコトと随分と仲が悪い。こいつは機織りの神でな、衣服を作るのが何より上手い。着物を作って欲しければ、いつでも申すが良い。 力器、千器もう察しはついておろうが、俺の愛し子の紫だ」 「お初にお目にかかります。奥方様私は、アメノタジカラオノカミ。アマテラス様直属に仕える者は自らの一文字を取って、別の名を賜っております。私のことは力器とお呼び下さい。どうぞお見知り置きを」 「お初にお目にかかります。紫様。アタシはタクハタチヂヒメノミコト、またの名を千器。 千器と一声、声をかけておくれ。そしたらいつでもどこでも駆けつけるよ」 最初は少し驚いたが、怖い人物ではないようで幸は一安心した。

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