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未熟な心2
「と、とにかく…!とにかくアマテラス様にご報告せねば!お加減が優れぬやもしれん…!」
「う、うぅ…っぐ」
「アタシ子どものお守りなんてしたことないんだよぉ…
紫様、泣き止んでおくれよ…アタシも何だか悲しくなってきた…」
昼時を告げに来た柊が、声を殺しながら泣く幸を見て血相を変えて飛んできた。
「紫様、いかがされました?お加減が優れぬのならお布団を…」
「ちがうのぉ…うぅ」
「まさか…!そこの貴方!紫様が悲しむような酷いことをなさったのですね!?」
「何なのさ…!って狐?狐がアタシに向かって偉そうに…!アタシは千器、今日から紫様の護衛を任されたんだ!そんなことするわけないだろう!」
柊と千器が言い争いを始め、幸は逃げるように縁側を後にして部屋の奥へ引っ込んだ。
(斎王だから僕はここへ来ただけなのに…本当はお勤め頑張ろうとしてただけなのに…どうして?
…僕じゃない人とアマテラス様が一緒にいちゃいや…どうしてそう思うの?
僕の、僕の光様なのに…ってなぜ僕はそう思うの?)
胸が支え て気分が悪い。
この針に刺されているような胸の痛みと重い感覚、もしかすると、身体の中に何かがいるのかもしれない。
そう思うと幸の目からはより一層涙が零れ落ちた。
「怖い…ふぅうっ、痛い……っく、気持ち悪い…」
これでは昼食は喉を通りそうにない。
幸は自力で布団を敷きそこに横になって掛け布団を頭まで被って小さくなった。
自分の身体を抱いて、さまざまなものに耐えるように目を瞑る。
そうすれば、楽になれるような気がしたのだ。
しばらくすると、部屋の外が騒がしくなってきた。
柊と千器の言い合いが激しくなったのだろうか。
(アマテラス様が帰ってきたらいいのにな……)
淡い期待を寄せてしまう。
高天原に戻ったばかりなのに、こちらに戻ってくるはずはない。
それを考えると余計に悲しくなってくる。
「紫…!!」
聞きたかった声が自分を呼んだ気がする。
「紫、紫…?また身体が熱くなったのか?俺だ。顔を見せてくれ」
「ひかる、さま…?」
幸は布団の隙間から少し顔を覗かせ、声の主のようすを伺った。
アマテラスだと分かった瞬間、直ぐに布団を被り直した。
涙や鼻水でぐちゃぐちゃ、おまけに髪が顔に張り付いてとんでもなく醜い姿になっているからだ。
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