51 / 60

未熟な心3

「紫、そんな調子では何があったのかさっぱり分からん。出てきてどういうわけかちゃんと話せ」 「わ、私のことなら大丈夫ですから…ご心配には及びません」 「何もなくて急に泣き出すやつがあるか。紫の中でなにかあったのか?何でもいい申してみよ」 「お気持ちだけで十分ですから…っ、申し訳ございません、今は一人にして頂きたいのです…」 今まで一度として幸がアマテラスを拒絶したことはない。 それが裏目に出て、アマテラスは更に幸の心配をした。 「今は遠慮はいらん。お前のことが心配で堪らない。頑なに嫌がるのなら、俺はいつまででもここで待つ」 「光様はいじわるです…っ、放っておいてとこんなにも申し上げているのに… 優しすぎていじわるです…うぅ、ひっく」 「布団を剥ぐぞ」 アマテラスの覚悟に流石の幸も観念したようすで、最後の呼びかけには何も反応しなかった。 幸の心を守っていた布団が剥がれ、蹲った幸がアマテラスの眼前に晒された。 アマテラスはまず、すんすんと鼻をすすり肩を上下させる幸の背中を優しくさすった。 心が静まるよう、幸に気付かれぬよう術を施す。 「幸、来い」 アマテラスは言葉に神気を載せて声を発す。 するとどうだろう、虚ろな目をした幸がアマテラスの胸のを目指してゆっくりと四つん這いのまま移動してくるではないか。 アマテラスは腕を広げて幸がこちらへ来るようすを満足げに見詰める。 「よし、良い子だ紫」 「……ふぇ??」 幸には今の状況が理解できていなかった。 アマテラスが使ったのは、本当の名を知っている者にだけ通用する術で、言葉に神気を載せて対象者の名前とさせたい行動などを言うと強制的に相手にそれを強要することができる。 名前さえ知っていれば、自分の思うままに相手を操ることができてしまう、使い方によっては危険な術である。 「この術を使えるのは、多くはないが少なくもない。力の強い妖は大概使えてしまう。 幸として生活するには危険かもしれぬと思ってな。それで?お前は何を嘆いておったのだ?もう言い逃れはできんぞ?先程の術を使っても良いのだがな…?」 不敵な笑みを浮かべて幸の目から零れていた涙を拭い取る。 目の周りは真っ赤になり腫れぼったくなってしまっていた。 「うぅ……っ」 幸は怖々首を横に振った。 幸が意外と頑固で少しおかしく思えてきたアマテラスは、どこまでもとことん付き合ってやろうと心に決めた。

ともだちにシェアしよう!