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紫煙

「目が覚めたか」 幸を労る声が聞こえる。 目を彷徨わせてみると、アマテラスが煙管を口にして時折煙を燻らせていた。 アマテラスの背中から見るそれはとても様になっていて、うっとりするほど似合っている。 「すまない。すぐ消す」 「い、けほっ…いえ、お気になさらず」 「あれだけ啼けばそうなるな。水、飲めるか?」 アマテラスは手早く煙管を片付け、幸を起こし水が飲めるように湯のみをそっと傾ける。 「あ、ありがとうございます…」 「果物もあるぞ。腹になにか入れておかないと二食も抜いているのだからな?」 その言葉に、幸はアマテラスとの濃厚な交わりを思い出してしまい、居た堪れず頭から布団を被った。 心臓が身体の内側から激しく叩いているかのようにドクン、ドクンと早鐘を打つ。 布団の外からは少し笑いを堪えたように『何か思い出したのか?』と尋ねられている。 「う、聞かないで頂けますか…」 「ふふ、床の上で乱れる姿も堪らなかったが…その反応も仕草も表情も何もかも愛らしい」 「ううぅ…は、恥ずかしい」 「ふふふ…紫、桃だ。食べろ」 羞恥で唸っている幸にアマテラスは手ずから桃を差し出した。 アマテラスの顔を見るだけで今は顔から火が出るほど恥ずかしいが、散々動いているたせいで空腹に負けぱくりと口を開いた。 空っぽの胃に果汁が染みるようだ。 喉もさらに潤い、甘い濃厚で肉厚の桃をゆっくりと味わう。 「…美味しいです」 「まだあるぞ。ほら、食べさせてやるから口を開けてみろ」 餌付けのようで楽しいのか、アマテラスはご機嫌でどんどん幸の口へ運んでいく。 幸はそれを従順に雛鳥よろしく食べていく。 「も、もうお腹いっぱいです…」 「そうか。ならば、身体を休めるためにも、もう眠った方が良い。水はもう少し飲むか?」 甲斐甲斐しく世話をやかれるとくすぐったい気がする。 でも、これ程気にかけて大切に大切に壊れ物を扱うように、そしてめいっぱいの愛情を自分だけのために注いでくれることに幸は尊さを感じる。 アマテラスの好意に甘えてまた水を飲ませてもらい、横になった。 「あの……いつものようにお隣りに居て頂けますか?」 「ふふ…あれだけ恐縮していたのに。俺と眠るのが好きになったか。可愛いやつだな」 右の口角を上げ、くつくつと笑い幸の額に口付けた。 幸はこんなに眠りに入るのが幸せだと思ったことはない。 いつも遠慮なしに床に入って来たり、朝目が覚めると抱き締められていたが、アマテラスに恋心を抱くと同じ行為でも全く別の感覚になる。 また心臓がうるさく内側から叩いてくるが、それが今は心地よく感じるほどだ。 今の雰囲気が甘ったるくて心地よくて、アマテラスとずっと触れ合っていたくなったのだ。 今日は初めて幸が自分から望んで床にアマテラスを招き入れた。 アマテラスもそれを特別視しているようで、逃がさないとでも言うように頭と腰を抱き寄せた。 「いつもより光様が近くにいて光様の香りがいっぱいします」 「安心して眠るが良い。起きてもずっと傍にいよう」 「……お慕いしています、光様。おやすみなさい」 アマテラスは返事の代わりに目を瞑った幸の瞼に唇で触れた。

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