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散歩
「うむ…俺はまだ幸といたい」
「高天原の主神ともあろうお方がこのようなところにいてはいけません、豊葦原は穢れています。早くお帰りにならないとお体に障ります」
「お前だってこちら側におるだろうが」
「屁理屈はよいのです。さあ、人の子に現を抜かしていては政 に支障をきたしますよ」
慣れた作業のように後ろ髪惹かれるアマテラスを追い立てる。
ぶうたれた顔を見れば幸も笑わずにはいられなかった。
どうやらアマテラスは幸の夢の中ではなく、やっと本物に出会えたのが本当に嬉しかったらしい。
その意図は不明だが、幸を可愛がってやりたくてうずうずしている。
「しかたない…今日のところは引き上げだ。幸、また夕刻に逢瀬 をしよう」
「お、ぉおうせ!?」
どうやら昨晩の出来事が逢瀬と思っていたのはアマテラスだけだったようだ。
かあっと顔を赤く染めると、恥ずかしがり屋だと揶揄 われた。
あのような端正な顔立ちでしかも、同一人物でもあり憧れだった光の君に優しく言葉を掛けられると嫌でも幸は反応してしまう。
「お、お待ちしておりますので、どうか気を付けて行ってらっしゃいませ」
「夕刻には戻る」
機嫌を直したアマテラスはトヨウケヒメを連れてふっと消えた。
(き、えた…やっぱり普通の人ではないんだな…)
そう心の中で思うと、何となく神という者の実感が湧き始めた。
「幸様、今日はどうされますか?」
「そうだね…ずっと部屋に閉じこもってたからお屋敷の周りだけでも散歩しよう。中で過ごすのも少し飽きちゃった」
「では、外出の用意をいたしましょう。この柊がお供します!」
(政って何するんだろう…)
ふと疑問を抱いた幸だった。
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