12 / 60

散歩2

「いやぁ、外は冷えますねぇ。もう冬が近づいてきたのでしょうか」 「あそこにいる時は全く寒くなかったのに。外はもうこんなに秋っぽくなってる」 「あそこは高天原と似たような仕様になっておりますから」 「なんで?」 「それは、アマテラス様が昨日のようにお過ごしになるからでございます」 その言葉に幸は耳を疑った。 あの屋敷がアマテラスが過ごす前提で作られていたなんて。 頻繁に来られたら緊張で心臓が持たなくなりそうなのに。 だがよくよく考えてみれば、幸が住まう屋敷を作ったのはアマテラスで、幸が作らせたのではない。 こちらは住まわせてもらっているだけなのだから、家主がここで過ごさない方がおかしい。 「だけど、こんな僕に構ってる暇なんてないと思うんだけどな…」 「何をおっしゃいますか!幸様はもうアマテラス様のものなのです。逢瀬にいらっしゃるに決まっているじゃありませんか」 「!?そ、それって!!」 「古来より、選ばれし者は神と祝言を挙げてきたのです。幸様も例外ではありませんよ」 そんな重大なことをこんな散歩中に言われてしまい、事柄の半分も受け止め切れなかった。 こんなところでしばらくぬくぬくと生活して、斎王本来の役目を失念していた。 (待って…でも!神との結婚、あれは概念的な話で…っ、普通はアマテラス様なんか人には見えなくて…っ!) 気持ちも頭も整理が追いつかず、目を回してしまいそうだ。 「そんな大事なことアマテラス様は一言も…」 「うっ、そ、それは……私がたった今、口を滑らせてしまったからです…」 うなだれてばつが悪そうにそう口を開いた。 「主様に口止めされておりました。主様のお考えで幸様に余計な心配を掛けぬよう、時が経てば話すと……はぁっ!!これまた口を滑らせてしまいました!!!」 口元を覆っても発した言葉は戻ってこない。 更に落ち込む柊を見て、おかしくて笑ってしまった。 「でもいずれは知ることになるんだし。心の準備は必要だから」 そうして話をしている時、あの赤い反物が掛かっていた背の高い杉の樹の前を通り過ぎた。 特に気になったわけでもないが、ここに初めて足を踏み入れた時にそんなことがあったなと思い返しながらその樹を見た。 「大きな鳥…」 今回はやけに大きくて真っ黒な鳥のようなものが止まっている。 カラスにしては大きすぎるそれは、ワシよりももっと大きな気がした。 前回同様、その鳥も目を離した隙にいなくなってしまった。 「あ、羽だ」 以前と違ったのは、そこに何かがいたという証拠があることだった。 幸の手よりも大きな羽が一枚、空から落ちてきた。 漆を塗ったかのように漆黒で艶やかな羽―― 神もいるのだから他に何がいてもおかしくないだろうと思い、それを拾い上げる。 (僕もどうやら鈍感になってきたみたいだ)

ともだちにシェアしよう!