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黒い羽と光
「綺麗だな…」
羽の根元を持ち、くるくると回してみる。
脚をぶらつかせながら縁側に腰かけてそれをぼーっと眺めていた。
「月光を浴びせ続けると霊力が溜まったりして…」
「ふむ。綺麗な羽だな」
「っ…!アマテラス様!」
にゅっと後ろから顔を出し、その羽をまじまじと眺める。
ふわりと包まれる甘い匂いに胸がどくんと跳ねた。
「さ、散歩中に拾ったのです…っ!漆を塗ったかのような美しい羽だったので、も、持って帰って来てしまいました」
「そうか。いいものを拾ったな」
「あ、アマテラス様は政 でお忙しいのではないですか…!?私などに構っている暇は…」
柊との会話を思い出してしまって、アマテラスを見ると焦りやら恥ずかしさやらで声が上ずってしまう。
「なぁに心配いらん。日が出ているうちは俺が、月が出ているうちはツクヨミ、俺の弟が政をする仕組みだからな」
寝衣 を着た幸を見て、つまらなさそうにもう寝るのか、と言う。
「申し訳ございません。またあのようにご迷惑をおかけするわけにはいきませんので…!」
「ふーん、それはつまらんな」
「あ、アマテラス様っ、揶揄 うのはお止め下さいませっ」
「はははっ、困った顔も可愛らしいな!本当にお前はおもしろい」
口を開け声を上げて笑うアマテラスを見て拍子抜けした。
三貴神:(さんきじん)の1柱、日本の総氏神 、太陽神、皇祖神 などと崇め奉られる存在がこんなに楽しそうに笑うだなんて。
人間とはそんなにも興味深い生き物だろうか、と広く客観的に受け止める。
だが、自分もその人間のひとりであるから、人間以外の気持ちは想像できるわけがなかった。
「さて、お前が床に入るのなら、俺も一緒に眠るとしよう」
「そんな恐れ多いこと私 には出来ません!眠れなくなってしまいます…っ!あんな無礼なことをアマテラス様にしてしまって…斎王として失格です」
「強情なやつだな。俺は気にしないといっている。何度も言わせるな」
「もっ!申し訳ございませんっ!」
「はぁ…もう少し緊張を解さんか。俺が悪いことをしているみたいだろう」
「で、でも…」
そんなことを言われても、幸は斎王としてここに来ているのだ。
まだ仕事らしい仕事もひとつたりともしていないし、もっと言えばただここでのんびり生活をしているだけだ。
それでも本来仕えるべき主人を敬い丁寧な言葉遣いをしないのは論外だ。
「またあの名で呼んでくれんのか?幸」
「あの、名…?」
首を傾げ詰るように告げるアマテラスをきょとんと見詰める。
「夢で逢うたのを忘れたとは言わせんぞ?」
「……ひかるのきみ…」
「それだ。
――初めてなのだ。俺の名以外で俺が呼ばれるのは」
「不敬ではないのですか?」
「特別な心地がして気分がいい。気に入っている」
「光様」
意を決して呼ぶと、優しい声音が返って来る。
「今日は月がよく見えますね」
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