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黒い羽と光2

「お呼びでしょうか、アマテラス様」 音もなく現れて庭に降り立ったかと思うと、縁側の階段付近に跪きアマテラスの名を呼ぶ。 御簾(みす)を上げ中に入ってくる様子もなく大人しく外で片膝を立てて頭を下げている。 縁側はすべて御簾が下げられており、敬意を表す相手の姿も見えない状態だというのに。 「ああ、ヤタガラスか。昼間の幸に羽をやったそうじゃないか。様子はどうだった」 寝室に入れることも御簾を上げさせることもなく、アマテラスは幸の寝顔を見詰めて髪を梳いてやりながら片手間に返答する。 「ここへ来てから始めて外へ出たようですが、特に変わった様子はありませんでした」 「ほう…で、お前はどう思う」 「どう、とは?」 「幸のことだ」 ヤタガラスと呼ばれた者は少しの沈黙の後口を開いた。 「……イザナミ様の神気(しんき)が微量に感じ取れました」 「やはりそうか」 「やはり?アマテラス様はもうお気づきだったのですか」 「ああ、初めてこの目で見たときに一瞬だが感じ取れた」 幸と話していた時とはまるで別人のような、冷たい声で会話をする。 感情を失った、冷たい音がヤタガラスに返っていく。 「母なる神気を纏い(まとい)し子……か」 「それが例の蝦蟇(がま)の予言ですね? ――蝦蟇はめったに夢を見ない。もしそれを見たならば、それは未来を映す鏡…」 「ああ、どうやらその答えが母上の神気だったようだ」 「国産み神産み。この世の母……そういう事ですね」 「母なる神気を纏いし子、幸がその予言の子だったとはとんだ偶然だな」 「でもどうしてイザナミ様の神気が?あの方はずっとご静養なされてたのでは?」 「それが問題なのだ。どこで何があったのか見当もつかん」 「このままお傍に置いておかれるおつもりですか?」 深刻な様子でアマテラスに尋ねる。 事態は思ったよりも深刻なように聞こえる。 「もしやこの子がイザナミ様を…」 「余計な推測はするな。今日はもういい、俺は寝る」 「御意、ではお休みなさいませ」 また音もなく気配が消える。 アマテラスは無意識に胸元へ擦り寄ってくる幸を大事そうに抱き込む。 「幸よ、お前は一体何者なのだ?」 「……んぅ」 「本当にいつみても可愛らしいな」 しわを寄せた幸の眉間を解し、再び気持ちよさそうな顔をしたのを確かめ、ゆっくりと目を瞑った。

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