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第3話 春のむにむに
「むにっ」
「うっひゃあ!」
拓斗が俺のわき腹を掴み、俺は悲鳴を上げた。
「くす、くすぐったい! やめて!」
「春樹、最近ちょっと丸くなったね」
「えっっ!!」
超うれしそうに言う拓斗に、俺は蒼白の顔面で対峙した。
「なに、なんでそんな悲壮な顔なの?」
「丸くなったって……。太ったってこと!?」
「うーん? たぶん、そうじゃない?」
なんてことを! なんってことを平然と言うんだ!
「し、しかたないだろ! 大学の野球サークルはまだまだ新歓コンパの真っただ中だし、野球で運動できる暇ないし、コンパって食い物全部新入生に回ってくるし……」
拓斗がジト目で俺を見る。
「僕の料理には手を付けないのに、コンパの料理は完食するんだ」
「手を付けないって!食ってるよ!半分は! コンパだから夕飯はいらないって言ってるのに作ってるのはお前だろ!」
「君がコンパで浮いて食事も喉を通らない時のことを思って作ってるんだよ」
「俺はそんなにコミュ障じゃねえよ」
「知ってる」
「じゃあ、なんで」
拓斗は俺の両手を取るとぎゅっと胸に抱いた。
「君がコミュ障だったらよかったのに。世界中で話ができるのが僕だけだったら良かったのに」
いつもの拓斗の焼きもちだ。俺を取りまく人間関係すべてが妬ましいと臆することなく俺に直接言ってくる。
「俺にも付き合いってものはあるんだし……」
「じゃあ、僕との付き合いもかんがみて夕食はうちで食べてね。コンパでは我慢してきて」
「俺の腹の虫と相談します」
拓斗はその晩、俺の腹に耳をつけて腹の虫と交信しようとしていたが、うまくいかなかったらしく、次のコンパから帰ったときにも立派なディナーがテーブルに並んでいた。
つづく。
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