86 / 87
ハロウィンオマケ③/ねこみみな闇金兄弟
「なぁ、そこのあんた」
人の行き来が絶えない繁華街片隅。
他の通行人がさっと顔を背けて聞こえないフリをし、そそくさと通り過ぎていく中、佐倉綾人だけは立ち止まった。
「そうそう、あんただよ」
目をやればダークスーツを羽織った男、黒埼が咥え煙草で無駄にどでかいダンボール箱の中に窮屈そうに座り込んでいた。
手つかずの黒髪からは尖がった猫耳が突き出していた。
「拾ってやってくんねぇかな」
「えっと……はい?」
「行くとこ、ねぇんだよ」
「貴方を拾えと、そう言っているのでしょうか?」
「まぁな」
頼むよ、美人さん。
何故だか、一目見て、黒埼をその場に放っておくことができなくなった綾人。
自宅へ連れて帰る選択肢へ、ぐっと傾きかけた、その時。
「兄貴ぃぃぃっ俺を置いてかないでぇぇっっ」
なんともう一匹、黒埼の背後に丸まっていたようだ。
「弟さんですか?」
「ああ」
当の昔に家族というものを失っていた綾人はどこか切なくなるのと同時に、その絆を大切にしたいと思った。
「極貧生活でよければみんなで一緒に暮らしてみましょうか」
黒埼の背にしがみついた弟の六華は「俺が兄貴以外の奴に懐くと思ったら大間違いだぞ、てめぇ」と、凄みがらも隠し切れない嬉しさで猫耳をぱたぱたさせている。
「すまねぇな、世話になる」
黒埼は身を乗り出すと、ダンボール箱前でしゃがみ込んでいる綾人を間近に見つめ、笑った。
ぐるるるるるる……
あ、喉、鳴らしてる。
ちょっと怖そうな外見だけれど、ちょっと可愛い……かな?
「なぁ、佐倉さん」
「お、重い、重たいです、黒埼さん……」
「あんたにもグルーミングしてやるよ」
「ひっ……わ、私は結構です……ああっ、耳はだめ……くすぐったい……です」
「その声。色っぽいなぁ、なぁ、綾人……?」
とんだスケべ猫耳な黒埼に日々過剰にじゃれつかれることになった綾人。
「耳元で名前を囁かないでください……全身、くすぐったくって……変になりそうです」
「変になっちまえ」
ソファで飼い主の綾人に嬉々としてのしかかる黒埼の背中目掛けて。
「にゃッッッ!!!!」
弟猫耳の六華がジャンプした。
「兄貴兄貴兄貴兄貴ッ、なにしてんの、なにしてんの!!??」
「六華。いきなり飛びついてきやがって、俺の背中にお前の好きなボールでも転がってたか」
「お……重いです……」
「綾人が潰れちまう」
黒埼兄弟のズッッッシリした重みに目を回しながらも、これまでの日々にはまるでなかった、てんやわんやな団欒に綾人の笑顔は止まらなくなるのだった。
ともだちにシェアしよう!