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This could be love?-4
「ほら」
ホテルへ向かう途中、黒埼は綾人に缶コーヒーを差し出し、同時に他愛ない質問も寄越してくるようになった。
「あんた自己破産する前は何をしていたんだ」
「大学の事務です」
「へぇ、何で辞めた?」
「複数の消費者金融から督促の電話が度重なり、迷惑をかけたので退職しました」
「ふぅん。たちの悪い会社だ」
「……」
「俺のところは良心的な闇金業者だ。運がよかったんだぞ、あんた方は……ああ、今日の部屋番号は×××だ」
くわえ煙草で運転する黒埼が低音の声で笑う。
黒服ばかりを纏う彼は夜の闇に簡単に溶け込んでしまえそうだった。
その夜の客に暴力を振られ、綾人が頬を腫らして戻ってくると、黒埼は鋭い眼をさらに鋭くさせた。
「何で殴られた。何か拒んだのか?」
「いえ、特には」
「クソ、これだから新規は困る」
すぐに車を出そうとはせずに黒埼は綾人の腫れた頬に触れてきた。
綾人は驚いた。
このような世界で暴力など日常茶飯事だと勝手に思っていたから、まさか心配されるとは予想もしていなかった。
「薬とかは打たれてねぇみたいだな。あんた、奥さんには何て言う。どうせ秘密にしてるんだろ?」
「特に秘密には……じゃあ貴方に殴られたと言います」
思いがけない綾人の切り返しに黒埼は愉快そうに声を立てて笑った。
この人は意外とよく笑うのだな。
綾人は頬の腫れ具合を確かめている黒埼の掌の感触をぼんやりと感じつつ、思った。
今夜も車内には煙草の煙が充満している。
最初は慣れずに目が涙ぐんだりもしたが、今では、すっかり馴染んでしまった。
知らない男に跨られて口の中に勃起したペニスを突っ込まれ、精液を顔に、体中に浴びせられて、その白濁した匂いをシャワーよりも紫煙が洗い流してくれるようで。
むしろ心地よい気さえした。
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