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ポチくんの憂鬱-2
ポチにはちゃんとリードをつけていた。
だが、今日はいつもより砂浜に集う人々が少なく、ラブラドールがフリスピーで遊んでいるのを見、ポチも自由に走らせてあげようかな、と凪は思った。
ちっちゃいコ達も帰ったみたいだし。
ポチは知らない人に飛びついたりなんかしないし。
俺が庭に行くと尻尾ぶんぶん振っておじいちゃんお手製の小屋に出たり入ったり、狂ったみたいにジャンプするけどさ。
この間公園で放した時も特に何もなかったし。
よし、外そっと。
「ポチ、遊んでいいよ」
そう声をかけて凪はポチのリードを外した。
すぐには走り出そうとせず、首を傾げ、凪を仰ぎ見る。
「ほら、追いかけっこしよ」
波打ち際で凪が走る素振りを見せると、その脇にぴったりくっついてくる。
あはは、可愛いなぁ。
せっかくこんな広いんだからいっぱい走り回ればいいのに。
人当たりのいい好印象の高校生と愛嬌のいいむく犬がじゃれあう微笑ましい光景に癒やされて、砂浜を訪れていた人々は何となく彼らを目で追っていた。
しかし穏やかだった砂浜は間もなくしてある種の緊張を孕むことになる。
凪の足元に纏わりついていたポチが、突如、まさかのハイテンションぶりで走り出したかと思うと。
ある人物の足元に嬉々として飛びついた。
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