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ポチくんの憂鬱-4
「カワイイね」
凪はぎこちない笑顔を浮かべて何度も頷いた。
「そ、そ、そそ、そうでしょ。可愛いんです、はい。ポチっていいます」
「へぇ、ポチ君かぁ。カワイイなぁ」
予想していたよりも男の話し方が砕けていたので凪はちょっとだけほっとした。
もしかして犬好きの、その筋の人かな。
その割にはポチのこと全く見てないけど。
とにかく早くポチを取り戻してこの人から離れなきゃ。
「ポチ、おいで、ポチ」
しかしポチは相変わらず男の足にちょこんと前脚を乗せてクンクン鳴いてばかり。
「お~い、ポチぃ~」
「ホント、カワイイねぇ。タイプど真ん中なんだけど」
「え、あ、そうですか?」
「ちょっとさぁ、お持ち帰りしてもいい?」
「えっ?」
前言撤回、ほっとしていた凪はまたも青ざめた。
「ちょっとだけでいいからさ。ね、お願い」
何だ、これ……俺、絡まれてる? やっぱりお金とられちゃう?
「蜩 さん、コーヒー買ってきましたけど」
男の隣に青年が現れた。
鎖骨まで伸びた黒髪は緩く縛られていて、こちらはジーンズにシャツというラフな格好、そしてさっぱり塩顔系だった。
「シンジ。ほら、見てよ。ポチ君だって」
「はぁ、ポチ君」
「ポチ君、今から連れてくから」
「え? まさかあそこに?」
「そう、あそこ。じゃ、行こうか、ポチ君?」
男の腕が伸びてきたかと思うと肩を引き寄せられ、凪は、もう従うしかなかった。
「何、緊張してる? 大丈夫、俺ってこう見えて優しいんだよ?」
あそこって、どこだろう。
廃ビルとか、廃工場とか?
そこで、俺、バラバラにされちゃう?
やっとのことでポチを抱き上げた凪は安心できるその温もりに顔を埋め、十七歳で終わってしまうかもしれない自分の一生を偲んだのだった。
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