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ポチくんの憂鬱-5
乗り慣れない高級感溢れる外車のバックシートに座らされた凪が連れて行かれた先は廃ビルでも廃工場でもなかった。
交通量の多い国道を逸れて林道に入り、緩やかな坂を上って着いた先はコテージ風の別荘。
中はがらんどうというか、調度品には一つ一つ布張りがされていて、生活感がまるでない。
「ほら、わんちゃんはシンジに任せちゃって」
腕の中のポチを取り上げられて凪は泣きそうになった。
だが、シンジという青年が慣れた手つきで彼を抱っこするのを見て、胸を撫で下ろした。
ポチは助かるみたい……よかったぁ……リード外した俺の責任だもん……犠牲になるのは俺だけでいいよ、うん。
「ほら、こっちおいで」
蜩という男に促されて凪は泣く泣く階段を上り、その部屋へと導かれた。
クイーンサイズのベッドがこれでもかと我が物顔で居座る寝室。
ブラインドが上げられた広々とした窓辺からは夕日に染まった海原が林越しに一望できた。
「ほら、ここ」
蜩はベッドに凪を座らせるとすぐ隣に腰掛けてきた。
過度な密着に凪の心臓は飛び跳ねる。
「高校生?」
「は……ぃ」
「高一? 高二? 高三?」
「高二……です」
「てことは十七歳か。へぇ。彼女は?」
また肩に腕を回される。
自分のTシャツと彼のスーツが重なって衣擦れの音を立てた。
「いなぃ……です」
至近距離で顔を覗き込まれ、凪は、涙ぐんだ双眸を見られる羽目になった。
「あらら、泣いちゃったか。まぁ、確かにビビるよねぇ、いきなり拉致られて」
近くで見れば見るほど爬虫類じみた危うげな眼光をひけらかす双眸だった。
獲物の擬態をいとも容易く見破りそうな捕食者の眼光を。
「こんなトコに連れてこられて」
「……」
「怖い?」
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