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ポチくんのクリスマス
クリスマスイブ。
去年は年上の彼女と映画を見に行き、カラオケで歌い、晩ご飯を食べて別れ、家に帰って家族とホールケーキを平らげた。
「ポチ君と過ごせてホント嬉しいよ」
今年、凪は、蜩と共にいる。
中華を食べたいと言っていた凪のリクエスト通り、蜩はホテルの高級中華に彼を連れて行き、個室で豪勢な食事を堪能し、ドライブで夜景を楽しみ、そして……。
「シンジに掃除させたんだよ、綺麗に片付いてるでしょ」
都心に建つデザイナーズマンション八階の一室に案内された凪は緊張するより先に、クールな内装を見回してはしゃいだ。
「すごい、ドラマとか雑誌で見るのと同じだ~……何かカッコイイ、大人って感じがしますっ」
「あはは……」
髪を撫でつけて黒縁眼鏡をかけた、まともな弁護士バージョンの蜩は繁々と室内を見回す凪に苦笑する。
「普段は散らかってんだよ?」
目に写るインテリア全てが高価そうに見え、凪は一つ一つ触ったり観察したりするのに夢中で。
「可愛いな、ポチ君」
「あっ」
いつの間に忍び寄った蜩に背後から抱き締められて思わず声を上げた。
「ホント、犬みたい」
「ひ、蜩さん……」
「初のお泊りにはしゃぐのもいいけど」
今、あんまりはしゃぎ過ぎたら後が持たないよ?
「とりあえずこれに着替えてね」
バスルームと隣り合わせの脱衣室に入り、蜩に渡された服を広げ、凪の表情は強張った。
「ひ、蜩さん、あの……」
伊達眼鏡を外し、間接照明に照らされたレザーソファの上で現在抱えている案件の書類を眺めていた蜩は、顔を上げる。
「ポチ君」
強張った足取りで蜩の前にやってきた凪は服と同様、真っ赤になっていた。
「あの、これ……女物……ですよね?」
襟元、袖口、裾、胸元にアクセントのファーがあしらわれた赤い長袖ワンピースは腰元のベルトで緩く絞られている。
覗く足は白いレース仕様のハイソックスに包まれていて。
紛れもないサンタさんコスチュームを身に纏った凪は忠実に例の帽子まで被っていた。
「完璧だよ。こっち、おいで?」
ばさりと書類をサイドテーブルに戻し、蜩はやや大袈裟な身振りで両腕を広げた。
……え、そこに来いって言ってるの?
こんな格好でただでさえ恥ずかしいっていうのに……うう。
しかし凪は相変わらず強張った身のこなしでありながらも、蜩の言う通り、彼の膝の上に乗っかった。
「ヤバイな。こんなカワイイ、サンタさん。俺、羽目外しちゃうかも」
……いつも外してるくせに。
「んっ」
恥ずかしくて正面の距離を開けていた凪を引き寄せるなり、蜩は、淡く色づく唇へとキスした。
結局、そのままソファの上で凪は蜩に両足を開かされた。
「やぁ……ん」
スカートを捲り上げられ、唯一自前のボクサーパンツを剥ぎ取られて、曝された後孔に着衣を乱した程度の蜩の隆起が入ってくる。
「やだ、だめ、まだ……やぁ、っ」
「嫌なの? 糸引いてるのに?」
愉しげにそう言うと蜩は凪の手をとって彼自身の熱源へと導いた。
「ん」
「ね、濡れてる……ホントは欲しいんでしょ、エロサンタさん?」
涙ぐんだ凪は中途半端な位置にある蜩の隆起をキュ、と締めつけ、左右に開かせた足を固定する彼を躊躇いがちにそっと見上げる。
「欲しい?」
「……欲しぃ……です、ひぐらし……さん」
素直なエロサンタさんにはご褒美いっぱいあげるよ?
捕食側の傲慢さを潜めた笑みを向け、蜩は、凪の中へペニスを突き入れていく。
「ふぁぁん……」
ハイソックスのレースでざらつく足を掴み直し、蜩は腰を大きく前後させる。
熱く湿る肉の狭間に勃ち上がったペニスを割り込ませ、巧みに内壁を擦り上げる。
「気持ちいい?」
「ぁ……いい、です……あんっ……あんっ……」
「ねぇ、キスしよっか」
蜩は上体を前に倒し、凪の掌に掌を重ね、唇も深く重ねた。
脱げかかっていた帽子を再び被せて、敏感な舌を舐り、温んだ口腔を淫らに鳴らす。
腰に腰を押しつけ、濃密に交えた下肢で振動じみた動きを繰り広げ、肉壁を執拗に刺激した。
「ふぁぁ……んっぁ、ぁ、っ、んぅ、っ」
肉が肉を打つ粘着質の音色と口元で奏でられる水音に鼓膜を犯され、凪は、甘い声を洩らす。
「……もういっちゃう?」
「ん、いっちゃう……」
「ガマンできない?」
「……っできないぃぃ……いっちゃう~……!」
しょうがないなぁ。
蜩は整然と撫でつけていた前髪が解れるほどに激しく律動した。
凪は甲高い声音を喉奥で滲ませて真上に迫る男の体にしがみつく。
白い足先が哀れなまでに揺らめいた。
「あ、あ、あ~……っ」
一気に追い上げられた凪は背筋を震わせてしどけなく達した。
「……ダイスキだよ、凪?」
快感に呑まれて思考がぼやける最中に聞いた呼号は、夢だったのか、それとも……。
結局、そのままソファの上で凪は蜩と一夜を明かした。
「やれやれ、いつまで寝てるんだか、もう昼過ぎですけど」
重たい瞼を持ち上げてみれば、自分に覆い被さって眠る蜩の肩越しに、キッチンでコーヒーを飲むシンジとばっちり目が合い……。
「!!!!??」
「あ、君はまだ寝てていいから。それより上の人、起こしてくれないかな。午後に来客控えてて」
何、何、この状況、恥ずかしくって死ぬレベルじゃ!?
俺、ほぼ素っ裸でハイソックスだけ履いてる状態だし!
蜩さんは全裸だし……!
暖房効いてるけど、でも、いくらなんでも風邪引いちゃうって……!!
「う~ん……」
「ひ、蜩さん、起きてください……っ」
「ん~……ポチ君、もうちょっと寝かせて……てか、させて……」
「蜩さぁんっ」
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