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牡丹は蝶の翅のかほりに-2
会社帰りのサラリーマンや化粧崩れをものともせずにひたすら飲む女性グループ、同伴と思しきカップルなど、客の年齢層が高めの焼き鳥屋。
大繁盛で賑わう中、シンジは調理場をぐるりと囲むカウンターに一人座り、生ビール片手に遅めの夕食をとっていた。
「どう、仕事は相変わらず?」と、顔なじみの店員に問われてさらっと答える。
「私用まで頼まれてパワハラすれすれではあるね」
長々と愚痴るのは好きじゃないシンジ、それだけ告げるとチャンジャとハツをツマミにして生をぐいっと飲んだ。
「ぱわはら?」
思わぬところからの問いかけにシンジは目を丸くする。
混んでいるために皆が詰めて座るカウンター、シンジの隣には金髪鼻ピアスの若者が座っていた。
「ぱわ原って変わった名前だな」
「……パワハラっていうのは、職場で目上の人間から精神的身体的イヤガラセを受けるって意味合いだけど」
「へぇ!」
金髪鼻ピアスの黒埼弟は、長めの黒髪を緩く縛った、ちょっと目つきの鋭いシンジをじろじろ覗き込んだ。
「お前、上司にイヤガラセされてんのか? 俺の上司はさいっこうにかっこよくて頭よくて優しくてかっけぇぞ」
「ふぅん。いい上司に恵まれてるね」
「俺の兄貴だ!」
シンジはそれから長いこと黒埼弟から兄の自慢話を聞かされた。
黒埼弟には露出度の高い派手な連れがいたのだが、初対面のシンジにばかり話を振る彼にぶちぎれ、単身店を去っていった。
それでも黒埼弟は兄への想いに漲る熱弁をやめなかった。
「たださぁ、最近入った事務員といい仲になっちまって」
「ふぅん」
「最近っつっても、前は羽振りいい顧客に体売らせて金稼がせてたデリ的従業員だったんだよなぁ」
「(ああ、やっぱりそっち系か)」
「それがいつの間にか、あ、兄貴と……慰安旅行とか、二人でツイン泊まりやがるし」
「君は置いていかれたの?」
「……一人で隣に泊まってた」
「一緒に行きはしたんだ」
「チクショー、俺も兄貴と一緒に温泉入りたかったのに」
黒埼弟は熱々の手羽餃子を生で流し込むとジョッキをカウンターにどんっと下ろした。
「今日は飲むぞ! お前も付き合え!」
何でそうなるかな、とシンジは首を傾げる。
でもまぁ、何か面白いし、明日は午後出勤だし。
付き合ってあげようかな。
このコ、何か犬っぽくて放っとけない。
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