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牡丹は蝶の翅のかほりに-3
痛い。
目覚めるなり、強烈な頭痛を覚えてシンジは呻いた。
瞼を持ち上げれば見慣れたワンルームマンションの天井。
酒で嗄れた喉が猛烈に水を欲している。
カーテンの狭間から差し込む日差しが眩しく、身じろぎして顔の前に腕を掲げようとしたら。
肘が何かに当たった。
「んが……」
シンジは瞬きした。
ゆっくり、隣に、視線を移すと。
黒埼弟が寝ていた。
「……」
えっと、これは、どういうことだろう?
そういえば俺、パンツしか履いてない……?
彼も裸っぽいな……。
えっと、寝起きで頭が追いつかない、どういうこと?
静かに混乱するシンジの視線の先で黒埼弟は寝返りを打った。
上布団を巻き込んで、そのまま、ベッドの向こう側に落下した。
ごん!!
「いでぇっ……誰だコラぁっケンカ売ってんのかぁっ」
床で寝惚けて喚く黒埼弟に、シンジは、現状を忘れてつい吹き出してしまう。
すると黒埼弟はぼさぼさ髪の向こうでぱちりと目を見開かせた。
「……誰だ、お前」
「……そこまで忘れる?」
「どこだ、ここ」
よくあることなのか、そこまで驚いている風でもなく、黒埼弟は辺りを見回す。
彼もシンジと同じくパンツ一丁だった。
よく見れば脱ぎ散らかされた服を尻で踏んづけている。
「ここは俺の部屋。あのさ、焼き鳥屋で話したのは覚えてる?」
「あ! ぱわ原さんがどうとかってやつか!」
「ぱ……まぁ、いいや、それで俺たちどうしたっけ?」
「あ?」
「確かショットバーで飲み直して、それから」
「それから? 覚えてねぇよ? てか風呂貸りっぞ、自分がくせぇ」
酒臭い髪やら体やらをフンフン嗅いで顔を顰め、黒埼弟は、すくっと立ち上がった。
現れた背中にシンジはまたも瞬きする。
背中に彫られた艶やかな牡丹。
そして、うなじから肩にかけて新鮮なキスマークが複数。
「おい、風呂どこだよ、ここ物置じゃねーか」
「……風呂は玄関側だよ」
場所を教えてもらった黒埼弟は鼻歌を口にしながら浴室へと入っていった。
シンジはベッドから動けずにひたすら虚空を見つめる。
俺はバイだけど。
男も好きだけど。
本番には至っていないようだけど。
あのキスマークは俺がつけたのかな?
「思い出せない」
浴室からも聞こえてきたどでかい鼻歌にシンジは失笑した。
あんな大型犬(凶犬?)がどのようにして自分に急所を許したのか、それを想像するとちょっとときめいてしまい、慌てて自重した……。
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