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牡丹は蝶の翅のかほりに-5

シンジはてきぱき肉を焼き、黒埼弟に与え、自分は熱々からやや温くなった肉を食べていたのだが。 「あ!」 「え、ごめん、生焼けだった?」 いきなり突拍子もなく黒埼弟が大声を上げたので、シンジはチャンジャを摘まんだ箸先を空中でストップさせる。 「んにゃ、肉はうまい、そういや思い出した」 「え?」 「しんちゃん、俺の牡丹、毟ろうとしたんだぜ」 「え?」 「よっぽど酔っててホンモンに見えたんだろぉな、引っ掻いたり抓ったりしやがんの」 それは多分愛撫していたんだと思うよ、黒埼君。 「しまいには蝶々の真似すっからさぁ、俺、笑えたわ」 「蝶々?」 黒埼弟はシルバーリングのはめられた指に飛んだタレを舐めて、言う。 「俺の背中の牡丹の蜜、吸おうとしたのよ?」 何でかうなじまで吸ってくっから、くすぐったくて、俺、死にそうだったわ。 「……ふぅん」 「もういっそ、しんちゃん、蝶々んなれば?」 いきなり焼網を超えて腕を伸ばしたかと思うと黒埼弟はシンジの右の二の腕をぎゅっと掴んだ。 「ここに派手な蝶、飛ばしたら、似合うんじゃね?」 そう言って黒埼弟は笑った。 蝶々のタトゥーなんて女の子がするものだろう。 そもそも、そんなものを入れようものなら即刻職場をクビにされる。 いや、あの人のことだから「夏場は隠しとけよ」くらいで済むかもしれない。 「ちょうちょ~ちょうちょ~牡丹にとまれ~」 黒埼弟は上機嫌に歌いながら焼肉を食べている。 思いがけないタイミングで二の腕を掴んできた掌、その熱が意外なくらい胸にじわりと凍みて、シンジは内心参っていた。 相手がブラコンノンケなんてこれまでの恋愛経験に一度もなく、対処法を模索するのに、これは時間がかかりそうだ……と、思った。

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